日本における施設タイプ別の抜歯時の抗菌薬使用にガイドラインが及ぼす影響:医療保険請求データベースを用いた分割時系列分析★★

2026.05.16

Guideline impact on antibiotic use for tooth extraction across facility types in Japan: an interrupted time series analysis using a health insurance claims database

A. Yamagami*, R. Inasaka, S. Imai, M. Tsuchiya, S. Hori, A. Furugen
*Keio University Faculty of Pharmacy, Japan

Journal of Hospital Infection (2026) 171, 32-42

目的

本研究の目的は、アモキシシリンを第三世代セファロスポリンよりも推奨する歯科抗菌薬ガイドラインが、施設の様々なタイプにおいて手術部位感染症(SSI)、処方パターン、および費用効果に及ぼす影響について、感染制御部門および病棟薬剤師の存在を考慮しながら評価することであった。

方法

2012 年 4 月から 2024 年 3 月にわたり、75 歳以下の人の医療保険請求データベースを用い、抜歯を伴う歯科受診について分割時系列分析を実施した。セグメント回帰モデルを適用して、抗菌薬ガイドライン(2014 年 12 月の 2014年ガイドライン、2016 年 4月の 2016 年ガイドライン)が、第三世代セファロスポリンによる治療日数(DOT)および SSI 発生率に及ぼす影響を評価した。歯科クリニックにおける抗菌薬のコストについて、また入院および外来における処方パターンを比較して評価を行った。

結果

全体で、第三世代セファロスポリンによる DOT は減少したが、ガイドラインの影響は施設によって異なっていた。2014 年ガイドラインの実施後、第三世代セファロスポリンの使用は病院で減少したが、歯科クリニックでは減少しなかった。2016 年ガイドラインの実施後、その使用は感染制御部門および病棟薬剤師を有する病院でさらに減少し、歯科クリニックにおける第三世代セファロスポリンの使用に減少が認められ始めた。感染制御部門のみを有する病院には変化は認められなかった。第三世代セファロスポリンからアモキシシリンへの変化は、院外処方のほうが院内処方よりもより顕著に認められた。SSI 発生率には変化はなかったが、抗菌薬のコストは経時的に有意に低下した。

結論

ガイドラインに基づいた抗菌薬適正使用支援により、患者の安全を損なうことなく、第三世代セファロスポリンの使用と医療費を減らすことができる。本研究の結果は、ガイダンスの影響を高める上で多診療科の協力の重要性を浮き彫りにしている。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント

日本の歯科領域における予防的抗菌薬使用の実態を調査した先行研究では、2015 年から 2018 年においても抜歯症例の約 8 割に抗菌薬が投与されており、特に歯科診療所では第 3 世代セフェム系抗菌薬からアモキシシリン(AMPC)への切り替えがほとんど進んでいなかったことが報告されている。今回の研究は、その後の長期的な変化を評価し、ガイドライン導入による改善効果を示したものと位置付けられる。
本研究から得られる実践的な示唆として、①歯科領域は依然として抗菌薬適正使用(AMS)の重要な介入対象であること、②ガイドラインの公表のみでは歯科診療所への浸透に時間を要すること、③感染対策チーム(ICT)と薬剤師の協働が処方改善に有効であること、④第 3 世代セフェム系抗菌薬から AMPC への変更によって SSI の増加は認められなかったこと、⑤AMS は医療費削減にも寄与すること、が挙げられる。特に、「病院では比較的早期に改善がみられた一方で、歯科診療所では改善が遅れた」という結果は、日本の歯科領域における抗菌薬適正使用の課題を示す重要な知見であると考えられる。

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