病院の病室専用バスルームの洗面台のシンクトラップからの細菌の拡散における気圧の一過性変動の役割:実験室ベースのパイロット研究★★
The role of air pressure transients on the spread of bacteria from wash-hand basin sink traps in hospital en-suite bathrooms: a laboratory-based pilot study M. Gormley*, D.A. Kelly, D.P. Campbell, T.J. Aspray, T. Dight *Heriot-Watt University, UK Journal of Hospital Infection (2025) 165, 32-40
背景
臨床環境においてシンクおよび洗面台シンクのトラップが院内感染の拡散に関与することを示すエビデンスが増えつつある。本パイロット研究では、病院の個室のトイレに典型的な病院の洗面台と排水システムを実物大で模したモデルを用いて、排水システム内における気圧の急激な上昇時におけるシンクトラップから洗面台への細菌伝播について検討した。
方法
実験室において実臨床の条件をシミュレーションして、50 m の配管ネットワークを病室専用トイレのモデルに接続した。安全なモデル細菌として Pseudomonas alloputida KT2440 を含んだシンクトラップと接続した配管内で気圧の急上昇を生成した。気圧、エアロゾルレベル、ならびに接触培地を用いてシンク全体の生菌数を測定した。
結果
陽圧の急激な上昇は、P. alloputida KT2440 を含んだシンクトラップから洗面台への水の侵入をもたらした。陽圧の急激な上昇はシンクトラップのストレーナーより上でエアロゾルを生成させた。目視できる水の侵入がないのにストレーナーが汚染された。エアロゾルは目視できる水がなくても形成されたことから、ストレーナー下で水が攪拌されていることが示された。シンクトラップから発生した細菌は表面上に拡散し、培養により生菌が回収された。配管内における気圧の急激な上昇は自然発生し、排水のジェット流などの活動により増加する。
結論
排水システムにおける気圧の急激な上昇は、汚染されたシンクトラップから洗面台への細菌の拡散を、特にエアロゾルを介して引き起こす可能性があることが、今回初めて示された。このような点から、こうした汚染の仕組みを抑制するために、病院の排水システムデザインならびに保守管理の再チェックの必要性が浮き彫りにされている。
監訳者コメント:
病院の手洗い用シンクの排水トラップが多剤耐性菌のリザーバーになることが世界中で報告されている。当初は原因ではなく結果であると考えられていたが、多くの研究により感染拡大の原因として重要視されるようになっている。そもそも排水管の菌がどのような機序でシンクや蛇口に到達するのかという検証は不十分であった。しかしながら、本論文により、圧差によりエアロゾルが発生し、排水トラップから逆行性に上昇し、シンク表面を汚染することが明らかとなり、手洗いシンクは院内感染における能動的な病原体拡散装置になりうることが証明され、シンクからの感染拡大機序の一端が明らかにされた。排水トラップと排水システムの構造的問題についても提起され、今後病院設計においても考慮すべき課題となるであろう。
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