集中治療室患者における人工呼吸器関連肺炎を減少させる使い捨て口腔ケアセットの効果:多施設共同研究

2025.06.10

Impact of single-use oral care sets on reducing ventilator-associated pneumonia among intensive care unit patients: a multi-centre study

A. Unahalekhaka*, P. Uirungroj, C. Saenjum
*Chiang Mai University, Thailand

Journal of Hospital Infection (2025) 160, 12-18

背景

人工呼吸器関連肺炎(VAP)は、人工呼吸器装着患者における重篤な病院関連感染症である。適切な口腔ケアは、VAP 発生率を低下させるためのきわめて重要な介入である。

目的

使い捨て口腔ケアセットによる VAP 発生率低下の効果を評価し、それらの使用に関するICU 看護師の意見を調査した。

方法

3 次病院 14 施設の ICU を対象に、多施設共同研究を実施した。使い捨て口腔ケアセットを用いて、標準化された口腔ケアプロトコールに従い、患者の口腔を洗浄した。VAP 発生率および VAP の抗菌薬治療の費用を、口腔ケアセットの導入前と導入後で比較した。自記式質問票を用いて ICU 看護師の口腔ケアセットに関する意見を収集した。

結果

口腔ケアセットの導入前には、34,731 人工呼吸器日に 269 例の VAP 症例が発生し、VAP 発生率は 1,000 人工呼吸器日あたり 7.74 例であった。VAP 治療のための抗菌薬の総費用は 5,137,622 タイバーツであった。導入後には VAP 症例が減少し、34,309 人工呼吸器日に 182 例となり、VAP 発生率は 1,000 人工呼吸器日あたり 5.30 例に有意に低下した(31.52%の低下、P < 0.05)。抗菌薬治療費用も 2,101,940 タイバーツに有意に低下した(P < 0.05)。調査した ICU 看護師 220 名のうち 96.3%が、「口腔ケアセットは医療関連感染症(HAI)の予防に役立った」ことに賛成または強く賛成した。85%以上が、使いやすさの向上、患者の快適さの向上、エビデンスに基づくガイドラインの遵守度の改善を報告した。

結論

使い捨て口腔ケアセットを標準化された口腔ケアプロトコールの範囲内で使用することにより、VAP 発生率および関連する費用が効果的に低下する。ICU 看護師は口腔ケアセットへの高い満足度を示したことから、これらの口腔ケアセットが患者の安全性を高め、ガイドラインの遵守を向上させ、医療費を低減する可能性が強調された。使い捨て口腔ケアセットを、人工呼吸器装着患者の口腔ケアプロトコールにルーチンとして組み込むことが推奨される。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント

本研究は、単回使用の口腔ケアセットの導入により VAP が有意に減少したことを示しているが、注目すべきは、その背景にあるケアの標準化である。物品の整備は、単に利便性を高めるだけでなく、実施手順や頻度を明確にし、日常業務としてのケアを“感染予防行為”として再定義する契機となった。1 日 2 回の歯磨きやクロルヘキシジンによる 6 回の清拭など、実施時間が明示されたことで、ケアが可視化され、属人性や曖昧さが排除された。さらに、現場スタッフの目的意識が高まり、VAP 予防に対する意識の共有が促進された点も見逃せない。感染対策における最も有効なアプローチは、個々の努力に依存しない構造の整備であることを裏付ける好例である。

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