Irish National Adverse Events Study(INAES)の医療記録の後向きレビューおよび欧州の点有病率調査の症例定義から院内獲得感染症を特定する

2019.03.12

Identifying hospital-acquired infections using retrospective record review from the Irish National Adverse Events Study (INAES) and European point prevalence survey case definitions


N. Rafter* , R. Finn, K. Burns, S. Condell, R.M. Conroy, A. Hickey, P. O’Connor, D. Vaughan, G. Walsh, D.J. Williams
* Royal College of Surgeons in Ireland (RCSI), Ireland
Journal of Hospital Infection (2019) 101, 313-319
背景
点有病率調査は、ある時点での院内獲得感染症のデータを収集するが、入院期間全体にわたる発生率や、患者または医療リソースに及ぼす影響に関する情報を提供するものではない。医療記録の後向きレビューは、入院期間全体を調べて、有害事象の有病率、発生率、予防可能性、身体障害および入院の延長期間を明らかにする。
目的
欧州の院内獲得感染症サーベイランス定義が Irish National Adverse Events Study(INAES)の医療記録の後向きレビューによる院内獲得感染症の負担を明らかにする上で適用可能かどうかを確認すること。
方法
INAES において、2 段階から成る方法を用いて入院 1,574 件のレビューを行い、有害事象 247 件を特定した。これらの有害事象を、欧州の院内獲得感染症の症例定義を基準として検討し、事象が院内獲得感染症によるものであったのかを判定した。これらの結果を、2011 年から 2012 年にわたる欧州における点有病率調査のアイルランドに関するデータと比較した。
結果
INAES における院内獲得感染症による有害事象の有病率は 4.4%(95%信頼区間[CI]3.1 ~ 6.1%)、院内獲得感染症による有害事象の発生率は入院 100 件あたり 3.8(95%CI 2.5 ~ 5.2)であった。点有病率調査によるアイルランドにおける院内獲得感染症の有病率は 5.2%であった。院内獲得感染症の種類と病原微生物は、INAES と点有病率調査において同様であった。INAES における院内獲得感染症による有害事象の約 4 分の 3 は予防可能なものであり、7%は永続的な身体障害を引き起こし、7%は死亡に寄与していた。平均で入院期間の 10 日の延長が、院内獲得感染症による有害事象に起因すると考えられ、事象あたり 9,400 ユーロの費用負担に相当した。
結論
医療記録の後向きレビューは、院内獲得感染症の発生率、予防可能性および影響に関する精度の高い情報源であり、点有病率調査による有病率を補うものである。院内獲得感染症による有害事象は、医療システムに対して他の有害事象と比べてより高額の費用負担をもたらす結果となる。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
近年の大規模サーベイランスの多くはある一時点に病院に滞在していた患者のみを対象として行う点有病率調査が主体となっている。本研究は従来から行われてきた後向きのカルテ調査によるサーベイランスと点有病率調査によるサーベイランスを比較し、データの一致性と、それぞれのサーベイランスのメリット・デメリットを検証したものである。そして、後向きのカルテ調査によって院内獲得感染症の発生頻度や影響、そしてその予防可能性など点有病率調査では得られない情報が得られると結論し、両方の手法によるサーベイランスを繰り返し行うことが重要としている。どちらかだけではいけない、ということだが、どちらも行うとなると…それはそれで大変だ。

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