分娩後の入院期間が乳児の腸内微生物叢に与える影響:経膣による出生と帝王切開による出生の網羅的解析★★
Impact of postpartum hospital length of stay on infant gut microbiota: a comprehensive analysis of vaginal and caesarean birth S. Bashar*, H.M. Tun, J.Y. Ting, M. Hicks, P.J. Mandhane, T.J. Moraes, E. Simons, S.E. Turvey, P. Subbarao, J.A. Scott, A.L. Kozyrskyj *University of Alberta, Canada Journal of Hospital Infection (2025) 156, 50-60
背景
出生後の長引いた入院についての主要な懸念事項は、日和見細菌の引き起こす病院感染(HAI)に罹患するリスクである。これは、腸内微生物叢の早期の確立を変化させる可能性がある。
目的
分娩後の入院期間(LOS)と、月齢 3 か月および 12 か月の時点での腸内微生物叢の組成との間の関連を、出産方法に従って、評価すること。
方法
CHILD Cohort Study からの合計 1,313 例のカナダ人の乳児が、この研究に参加した。長引いた LOS は、経膣分娩後 2 日以上、帝王切開後3日以上と定義した。乳児の腸内微生物叢の特徴は、月齢 3 ~ 4か月と 12 か月の時点で、糞便検体の Illumina 16S rRNA シークエンシングによって明らかにした。
結果
長引いた LOS の後、分娩時に抗菌薬への曝露がなかった経膣分娩の乳児は、HAI を引き起こすことが知られている細菌が腸内でより豊富で、例えば、月齢 3 か月および 12 か月の時点でエンテロコッカス(Enterococcus)属菌、3 か月の時点でシトロバクタ―(Citrobacter)属菌、12 か月の時点でクロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)がより豊富であった。3 か月の時点で Enterococcus 属菌または Citrobacter 属菌が豊富であることは、分娩時に抗菌薬への曝露がなかった経膣分娩の乳児において、LOS と、月齢 12 か月の時点でバクテロイデス(Bacteriodaceae)科が豊富でないこと、またはエンテロコッカス科/バクテロイデス科存在比または腸内細菌目/バクテロイデス科存在比が高いこととの間の関連を有意に仲介していた。HAI を引き起こす腸内細菌目細菌は、帝王切開後 LOS が長引いた乳児の乳児期後期でも、より豊富であった。3 か月の時点で母乳のみで育ててはいない場合や、12 か月の時点で母乳を与えていない場合、LOS が長引いた帝王切開の乳児では、ポルフィロモナス(Porphyromonadaceae)科(バクテロイデス門の)が激減していた。
結論
出生後入院期間が長引くことは、乳児の腸のディスバイオシスと関連している。
監訳者コメント:
先進国では、一般的に出産後は母児同室で退院まで過ごすが、コスト削減と脱医療化の推進により在院日数の短縮化が実施され、オランダはゼロ日、カナダは経膣分娩後 1 日、帝王切開で 2 日後には退院する。滞在延長により新生児の腸内細菌叢に変化が見られることが認められており、母乳や分娩様式による影響も認められている。日本での出産での滞在期間は、経膣分娩 4 ~ 5 日、帝王切開では5 ~ 7日とされており、諸外国よりはかなり長いため、日本での乳児の腸内細菌叢への影響についての研究が待たれる。
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