無症候性細菌尿の過剰治療:質的研究
Overtreatment of asymptomatic bacteriuria: a qualitative study
M.M. Eyer*, M. Läng, D. Aujesky, J. Marschall
*Bern University Hospital, Switzerland
Journal of Hospital Infection (2016) 93, 297-303
背景
無症候性細菌尿の過剰治療が広範に行われており、これによって抗菌薬の副作用、医療制度の過剰コスト、および抗菌薬耐性が引き起こされる可能性がある。国際的なガイドラインによると、無症候性細菌尿は抗菌薬治療の適応ではない(一部の例外を除く)。
目的
治療適応がない状況で、無症候性細菌尿に抗菌薬を使用する理由を明らかにすること。
方法
2011 年にスイスの3 次病院で質的研究を実施した。本研究の目的にかなったサンプリング法によって選ばれた 21 名の内科研修医および指導医に対し、半構造化質問票を用いてインタビューを実施した。専用ソフトウェア(MAXQDA®)を使用し、内容をテーマ別に分けた帰納的アプローチを行って回答を分析した。
結果
21 名のインタビューで、無症候性細菌尿に対する過剰な抗菌薬投与の理由として、以下のような回答が得られた(回答内容の頻度順に記載)。(1)臨床像を考慮に入れずに検査所見に基づいて治療を行っている(17 名)、(2)不安、過剰なまでの慎重さ、患者の予後によい影響が出ることへの期待などの心理学的要因(13 名)、(3)医療機関の文化、同僚からの重圧、患者の期待、適切な意思決定を妨げる過度の仕事量などの外部圧力(9 名)、(4)臨床症状・徴候の解釈が困難(8 名)。
結論
この質的研究で、不要な抗菌薬処方の動機として、医師主体の要因(過剰なまでの慎重さなど)と外部圧力(過度の仕事量など)の両方を明らかにすることができた。また、無症候の患者を検査所見のみに基づいて治療するという高い頻度で挙げられた慣行は、エビデンスに基づくベストプラクティスの認識不足と解釈できた。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
今回の検討では、無症候性細菌尿を対象とし、抗菌薬の過剰使用につながる医師の心理的動機・要因についてインタビューを行ったが、ここで得られた結果は、わが国で日常的にみられる医師の行動の現状とかなり共通するところがあるのではなかろうか。本論文は、抗菌薬の適正使用を推進するうえでの心理的課題を改めて明らかにしたといえよう。
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