NHS スコットランドにおけるノロウイルスへの備えと管理の強化のための PDSA サイクルの活用★

2012.10.31

Using a PDSA cycle of improvement to increase preparedness for, and management of, norovirus in NHS Scotland


E.T. Curran*, D. Bunyan
*Health Protection Scotland, UK
Journal of Hospital Infection (2012) 82, 108-113
背景
2009/2010 年のノロウイルスシーズンは、スコットランドにおける最悪のシーズンの 1 つであったとする感染予防・制御チーム(IPCT)は多い。スコットランド健康保護局(HPS)による週 1 回の点有病率調査により、ピーク時には 53 病棟が閉鎖されていたことが判明した。
目的
学んだ教訓からシステムを改善するという 1 年間のサイクルを確立して、スコットランドにおけるノロウイルスアウトブレイクの影響と発生率の減少を図ること。
方法
スコットランドの IPCT による 2 回のノロウイルスシーズン終了時評価(2009/2010 年および 2010/2011 年)を、全国的な計画・実行・評価・改善(Plan, Do, Study, Act;PDSA)モデルを用いて解析した。
結果
1 回目の評価(2009/2010 年)では、IPCT はアウトブレイク報告時には適切な対応をとったが、シーズンへの備えは十分ではなかったことが明らかとなった。さらに、IPCT は具体的な問題点を詳述するに足るデータを有していなかった。HPS は 2010/2011 年のシーズンに向けて、ノロウイルスへの備えと管理を最適なものとするためのツールを開発する計画を立てた。2 回目の評価(2010/2011 年)では、ノロウイルスへの備えと管理のいずれについても、はるかに先制的な対応を行ったことが示された。
結論
全国的な PDSA サイクルによって、国民保健サービス(NHS)スコットランドにおけるノロウイルスアウトブレイクの発生率と影響の減少を目指したシステム改善を行った。ノロウイルスアウトブレイク発生率は 2011/2012 年のシーズンには低下した。しかし、流行ウイルスの変異という問題のため、システム改善の効果を評価することは困難であった。ノロウイルスは毎年、主に冬季の保健衛生上の課題となる。そのため、シーズン終了時の評価を、次のシーズンのための計画改善に使用することが可能であり、これによって適切な実践を共有し、また実証することができる。より多くの年数のデータが解析に利用できるようになれば、システム改善の効果を評価することが可能となると考えられる。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
医療施設が感染管理を行ううえで、計画・実行・評価・改善のサイクルを回すことは決して新しい発想ではない。しかし、この論文が取り上げているのは保健省レベルでの取り組みとしての PDSA サイクルの実施である。結論で触れられているように、結果の評価は容易ではないと思われるが、PDSA サイクルを通して感染対策の方法を共有し、施設レベル、公衆衛生レベルで評価する仕組みを構築した。日本においては、2012 年度から開始された感染対策加算にかかわる地域連携は、まずはサーベイランスデータの共有から始まっていると思われる。このような取り組みの手法は、その先に続く地域での感染管理の向上において、大いに学ぶところがある。

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