パキスタン・シンド州の公立医療施設における飲用水の水質:微生物学的および物理化学的汚染物の横断的評価
Drinking water quality in public healthcare facilities in Sindh, Pakistan: A cross-sectional assessment of microbial and physicochemical contaminants G.M. Arain*, N. Sattar, Z. Fatmi, S. Khatoon, N.A. Khan *University Road, Pakistan Journal of Hospital Infection (2026) 170, 161-173
背景
安全な飲用水へのアクセスは、医療施設における患者ケアおよび感染予防にとって極めて重要である。パキスタンのシンド州において、汚染の報告が広まっているにもかかわらず、モニタリングデータは限られている。
目的
本研究の目的は、シンド州全域の医療施設に供給されている飲用水の物理化学的および微生物学的な質を評価し、また関連する患者安全にかかわるリスクを評価して、感染予防制御(IPC)戦略にとって有用な情報と、飲用水の水質に関する介入の指針を提供することであった。
方法
26 地区の医療施設 136 施設から飲用水サンプル計 280 個を収集し、重要な物理化学的パラメーターおよび微生物汚染物質指標(大腸菌群、大腸菌[Escherichia coli])について分析した。分析は、米国公衆衛生協会(APHA)の基準に従って行った。データは、世界保健機関(WHO)の飲用水ガイドラインに基づいて解釈した。多変量解析および水質化学的解釈を用いて、汚染源と対策を明らかにした。
結果
汚染パターンには地域によって大きなばらつきがあり、主として地下水源が塩分濃度、硬度、およびナトリウム超過に寄与していた一方、地表水源は濁度および微生物リスクと関連していた。浄水施設の性能にはばらつきが見られた。地区ごとの超過レベルから、一律の方針による対応よりも、対象を絞った介入が必要となる、汚染の明らかな多発地点が特定された。総溶解固形物は、サンプルの 30%で WHO の規定限界を超えており、特に ナウシェロ・フェローズ、シカルプール、サンガル、ウメルコットで超過が大きかった。濁度はサンプルの 20.7%で許容値を超過しており、タッタ、スジャワル、スクールで安全基準を超過していた。塩化物イオンおよび硬度は、それぞれサンプルの 22.1%および 16.1%でガイドラインの基準上限値を超えており、主に地下水で顕著に認められた。ナトリウムはサンプルの 25%で基準上限値を超えていた。フッ化物およびヒ素による汚染は限局的であった。微生物学的汚染は広くみられ、大腸菌群はサンプルの 76.3%で、大腸菌はサンプルの 18.6%で検出された。多変量解析からさらなる知見が得られ、主成分分析により鉱化作用(PC1、49.45%)および炭酸塩平衡(PC2、10.63%)が主要な制御因子として同定された一方、水化学相分析では沈殿優位な Ca-Mg-HCO3 水、岩石優位の Na+ 濃縮、および蒸発駆動するの Na+-Cl- -SO42- 塩類化が区別された。
結論
シンド州の医療施設における飲用水の多くの割合が WHO の基準を満たしておらず、かなりの微生物学的および化学的リスクが認められた。感染予防・管理(IPC) の世界的な優先事項および持続可能な開発目標(SDGs)の目標 6 に従って、IPC および患者の健康をモニタリングの強化、効果的な消毒、ならびに飲用水安全計画の策定が喫緊の課題である。
監訳者コメント:
本論文は、「医療施設における水=安全とは限らない」という前提をデータで示した、感染対策の基盤(インフラ)に関わる研究である。医療機関において飲用水は単なる飲水にとどまらず、手指衛生、口腔ケア、器具洗浄などにも使用されるため、水の質は感染対策の質と密接に関連しているといえる。
日本では一般に安全な水が供給されているため本研究の結果をそのまま適用することは難しいが、世界的には医療施設においても飲用水の安全性が必ずしも保証されているわけではなく、水質には微生物学的・化学的リスクが存在する。そのため、感染対策の一環として水質の継続的なモニタリングと水安全管理の重要性を認識しておく必要がある。
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