病院のシンク排水管の加熱による細菌コロニー形成の低減効果★
Effectiveness of heating hospital sink drainpipes for reducing bacterial colonization S. Kakiuchi*, T. Tanaka, J. Kawaguchi, Y. Honda, Y. Harada, A. Fujita, M. Tashiro, T. Kusaba, K. Izumikawa *Nagasaki University Hospital, Japan Journal of Hospital Infection (2025) 163, 10-22
背景
病院のシンク排水口は、院内感染を引き起こす細菌のリザーバーとなる。排水管加熱除菌ユニット(drainpipe thermal disinfection unit:DTDU)は、排水管の温度を上げることで細菌のコロニー形成を抑制または軽減する。しかし、その有効性はまだ包括的に評価されていない。
目的
本研究では、日常的な清掃と消毒に加えて、臨床現場における新しい金属製排水管の細菌コロニー形成を防止するための DTDU の有効性を調査した。
方法
この非盲検並行群間比較研究は、長崎大学病院の集中治療室で実施した。口腔ケア機器の洗浄用(oral care:OC)および職員の手洗い用(handwashing:HW)の新しいシンク排水管それぞれ 3 本および 5 本に DTDU を設置した。DTDU を設置していない OC および HW の 2 本の新しいシンク排水管を対照とした。シンクは通常通り使用し、エタノールワイプによる毎日の清掃と、次亜塩素酸ナトリウムを含む排水管洗浄剤による週 1 回の洗浄を行った。さらに、OC 排水管は泡状次亜塩素酸ナトリウムを使用して消毒した。2 週間ごとに排水管内部からサンプルを採取し、細菌同定、半定量培養、抗菌薬感受性試験を行った。排水管のバイオバーデンに対する DTDU の効果は、Fisher の正確確率検定を用いて評価した。
結果
各シンクから 14 回サンプルを採取した。DTDU 設置排水管では、OC および HW ともに対照群と比較してバイオバーデンが有意に低下した(いずれも P < 0.01)。最も多く分離された細菌は緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)(46.3%)であったが、DTDU 設置 OC 排水管では検出されなかった。カルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌は、対照群 HW 排水管で検出されたが、DTDU 設置 HW 排水管では検出されなかった。
結論
排水管の加熱消毒により、定期的な清掃や消毒に耐性のある菌株を含む細菌のコロニー形成を抑制できる可能性がある。
監訳者コメント :
病院のシンク排水管が多剤耐性菌の普遍的なリザーバーであることは周知の事実であり、次亜塩素酸ナトリウムなどを用いたルーティンな化学的消毒だけでは定着抑制に限界がある。本研究で検証された、排水管自体を物理的に加熱するアプローチは、この難題に対する新たな解決策となりうる。日常的な化学的消毒に加えても、対照群では細菌定着がみられたのに対し、加熱装置を併用した群では、緑膿菌やカルバペネマーゼ産生菌(CPE)を含む細菌量が長期間にわたり有意に抑制された点は重要である。
排水管の細菌定着抑制が、臨床的な感染症の発生率低下にまで繋がるかの検証は今後の課題であるが、薬剤に依存しない物理的な環境対策は非常に魅力的だ。こうした設備が、今後の病院インフラにおける標準的な選択肢となる可能性を秘めているといえよう。
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