日本の病院における抗菌薬使用:愛知県における点有病率調査の結果、2020 年★★
Antimicrobial use in Japanese hospitals: results from a point-prevalence survey in Aichi, 2020 H. Morioka*, Y. Koizumi, K.Oka, M. Okudaira, Y. Tomita, Y. Kojima, T. Watariguchi, K. Watamoto, Y. Mutoh, T. Tsuji, M. Yokota, J. Shimizu, C. Hasegawa, S. Iwata, M. Nagaoka, Y. Ito, S. Kawasaki, H. Kato, Y. Kitagawa, H. Hamada, Y. Nozak, K. Akita, S. Shimizu, M. Nozawa, M. Kato, M. Ishihara, K. Ito, T.Yagi *Nagoya University Hospital, Japan Journal of Hospital Infection (2025) 161, 140-147
背景
抗菌薬使用に関する包括的なデータは、効果的な抗菌薬適正使用支援を促進する上で極めて重要である。しかし、日本の病院における抗菌薬使用に関する定性的な情報は限られている。
目的
日本の病院における入院患者の抗菌薬使用に関する概要を提供すること。
方法
2020 年、愛知県全域で多施設において点有病率調査を実施し、患者の人口統計学的背景、基礎疾患、抗菌薬使用の適応(市中感染症/医療関連感染症の治療、外科的予防投与、内科的予防投与、その他)、治療が行われた感染症、ならびに抗菌薬適正使用支援チームの介入に関するデータを収集した。
結果
本研究の対象とした病院 27 施設の患者 10,199 例中、抗菌薬計 3,738 剤が患者 3,024 例に処方された(29.6%、95%信頼区間 28.8 ~ 30.5)。これらの抗菌薬のうち、1,510 剤(40.4%)が市中感染症治療、815 剤(21.8%)が医療関連感染症、745 剤(19.9%)が外科的予防投与、および 639 剤(17.1%)が内科的予防投与として処方された。症例の31.2%において、2 日以上にわたる外科的予防投与が観察された。処方された抗菌薬の上位 3 剤は、セファゾリン(12.0%、450 剤)、セフトリアキソン(9.2%、343 剤)、および経口スルファメトキサゾール・トリメトプリム(8.7%、327 剤)であった。患者 1,000人当たり抗菌薬使用は、超大規模病院で最も高く(472 剤)、小規模病院で最も低かった(264 剤)。セフトリアキソンは市中感染症に対して最も多く処方されていた一方、メロペネムは医療関連感染症に対して通常処方されていた。抗菌薬適正使用支援チーム介入の実施率は、市中感染症において 15.0%、医療関連感染症において 22.5%であった。
結論
本研究により、日本の 1 地域における抗菌薬使用に関する包括的な情報が得られ、病院の規模によるばらつき、医療関連感染症に対する広域抗菌薬の頻繁な処方、内科的予防投与としてのスルファメトキサゾール・トリメトプリムの高率の処方、ならびに長時間の外科的予防投与が明らかにされた。
監訳者コメント:
本研究は、2020 年に愛知県内 27 病院における大規模なコホートで詳細に分析された抗菌薬使用実態調査結果である。今回の調査には 2019 年のセファゾリン供給不足、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックが背景にあるが、そのような中で AWaRe 分類の「Watch」「Reserve」に分類される抗菌薬の割合や、周術期予防抗菌薬投与の長期投与、トリメトプリム・スルファメトキサゾール(TMP-SMX)の内科的予防での多用、AST 介入率の低さなどが浮き彫りになり、薬剤耐性菌の観点、各薬剤の適応と必要性、ASP 推進の実効性に関するさらなる検討が望まれる。このような調査が全国的規模でも行われることが期待される。
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