報酬を上回る:病院感染予防・制御のゲーミフィケーション戦略への洞察★
More than rewards: insights into a hospital infection prevention and control gamification strategy N. Reinoso Schiller*, G. Motaharina, A.König, G. Benze, J. Eichkorn, M. Weber-Krüger, A.M. Köster, L. Fischer, E. Schulte, V. Ellenrieder, S. Scheithauer *University Medical Centre Göttingen, Georg-August University Göttingen, Germany Journal of Hospital Infection (2025) 160, 74-80
背景
医療従事者に対する従来の感染予防・制御(IPC)教育およびトレーニングは、高コストで持続性が極めて低い。ゲーミフィケーション戦略は、内発的および外発的動機づけといった心理的誘因を利用して行動変容を促す。しかし、どのような種類の報酬提示が医療従事者の関与にとって最も有益なのかについてはほとんど分かっていない。
目的
どのような種類の報酬戦略が、医療従事者の関与および IPC に関する知識の獲得を最も促す可能性があるかを調べること。
方法
本研究は、消化器内科病棟 3 病棟で実施し、緩和ケア病棟 1 病棟を対照とした。ベッド占有率およびアルコール製手指消毒薬(ABHS)消費量のデータを 2 か月間のベースライン期間に収集し、正答数を介入フェーズに収集した。期待および満足度に関する調査を、介入前および介入後に実施した。2 週間に 1 回、損失回避、標準報酬およびゲーム内報酬の戦略を用いて知識に関するクイズを実施した。多変量解析を用いて、ABHS の消費量および IPC に関する知識に関するデータを解析した。
結果
全体で、医療従事者 105 名が本研究に参加した。ベースラインからゲーミフィケーションの最終フェーズまでの間に、ABHS 消費量が平均で 170%増加した。この結果は、ゲーミフィケーションの有意な効果を表している(P < 0.05)。しかし、ABHS 消費量にはゲーミフィケーションを実施した病棟間で有意差は認められなかった(P > 0.05)。さらに、ゲーミフィケーション戦略では対照戦略よりも医療従事者の関与が高いことが示されたが、損失回避および標準報酬の戦略ではゲーミフィケーション戦略単独と比べて、ABHS 消費量またはゲーム関与の増加は示されなかった。
結論
本研究の介入は、医療従事者および非医療従事者を、IPC のトピックに効果的に関与させて、医療従事者のワークフローに有益な影響を及ぼすとともに ABHS 消費量を増加させた。これらの結果は、ゲーミフィケーションが IPC 教育にとって有望なアプローチであることを強調している。
監訳者コメント :
IPC は一般的に学生や医療従事者に人気のない話題であり、ガイドラインの遵守に影響を与え、患者の安全を低下させる。ゲーミフィケーションはゲーム的な要素を取り入れることで、IPC の認識を維持し、医療従事者のモチベーションと IPC の認識の両方を高めるアプローチとなる。今回の研究ではゲーミフィケーション参加により ABHS 消費量の増加という効果を認めたが、報酬の有無による影響は見られなかった。今後、さらなる研究を行うことにより、ゲーミフィケーションが従来の教育に代わるアプローチとして活用できそうである。
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