英国 29 病院における医療に関連した流しの基本構造、および排水トラップにおける残留抗菌薬および生化学に関する調査★

2025.05.13

Survey of healthcare-associated sink infrastructure, and sink trap antibiotic residues and biochemistry, in twenty-nine UK hospitals

G. Rodger*, K.K. Chau, P. Aranega Bou, G. Moore, A. Roohi, The SinkBug Consortium, A.S. Walker, N. Stoesser
*University of Oxford, UK

Journal of Hospital Infection (2025) 159, 140-147

背景

病院の流しは、医療関連感染と関係している。排水トラップの中の抗菌薬と化学物質は、病原体や薬剤耐性(AMR)を選択する可能性がある。流しの設計と使用法を最適化することで、流しから患者への病原体の伝播を軽減させる可能性がある。

目的

病院の流しの基本構造についての大規模な調査を実施すること。

方法

英国の 29 の病院から 3 つの病棟{集中治療室(ICU]/内科/外科、2023 年 1 月から 3 月)の流しの写真とメタデータが提出された。流しのデザインは、ガイドラインおよび公表された研究結果に従って、「最適」と分類するために写真を使用した。排水トラップの吸引液は抗菌薬と化学物質について、ディップスティックテストを行った。ロジスティック回帰を用いて、病棟の種類、流しの位置、最適なシンクデザイン、検出可能なトラップでの抗菌薬出との関連を明らかにした。

結果

調査した流し 287 個のうち、111 個が ICU、92 個が内科病棟、84 個が外科病棟にあり、77 個は薬品/調剤室、97 個は患者の部屋、25 個は患者の横の部屋、88 個は汚物処理室にあった。流しと病床の比は、患者ベッド1床あたり0.23 ~ 2.83 個であり、ICU で高かった(内科病棟と外科病棟ではそれぞれ 0.82 と 0.84 に対して 1.21;P = 0.04)。流しと患者の距離の中央値は 1.5 m(四分位範囲、1.00 ~ 2.21 m)であった。流しのデザインは様々であったが、65/122(53%)の流しが患者用ベイ/サイドルームに設置されており、「最適」なデザインはサイドルームの位置と関連していた(P = 0.03)。排水トラップの 95/287(33%)から抗菌薬が検出され、抗菌薬/調剤室と関連していた(P < 0.001)。排水トラップで検出された化学物質には、金属、塩素、フッ化物があった。

結論

流しは、病院では一般的であり患者の近くに設置されることが多いが、最適な設計がなされていないことが多い。一般的に使用される抗菌薬が、排水トラップの 1/3 で検出されたが、これらのリザーバでの病原体や AMR の選択、およびそれに続く患者への伝播に寄与している可能性がある。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント

日本では病室にシンクがない施設も多く、共用洗面所や処置室への依存度が高いため、英国とは異なるリスク分布が予想される。また、日本では清拭エリアと汚染エリアでのシンクの使い分けにより大きく異なる可能性がある。そのような背景の違いを考慮した上で、本研究で、シンクトラップの 33%で抗菌薬残留が検出され、特に医薬品調剤室で 57%と高頻度であったことは、日本の病院薬剤部や調剤室でも同様のリスクがある可能性を示唆するデータで廃棄プロセスの最適化が課題と思われる。また患者エリアのシンクで「最適設計」が53%に留まっていたことは、今後の病院設計などの際に見直す項目の 1 つとなり得ると思われる。

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