N95 マスクの処理および滅菌の実施における系統的な品質管理の必要性★

2023.03.10

The need for systematic quality controls in implementing N95 reprocessing and sterilization

N. Goyal*, D. Goldrich, W. Hazard, W. Stewart, C. Ulinfun, J. Soulier, G. Fink, T. Urich, R. Bascom, on behalf of the N95 Taskforce
*The Pennsylvania State University, USA

Journal of Hospital Infection (2023) 133, 38-45


背景

新型コロナウイル感染症パンデミック時における個人防護具の必要性の高まりのため、多くの医療センターでは単回使用 N95 マスクの再使用の際に、米国食品医薬品局(FDA)による緊急使用許可の下で承認された滅菌システムが使用されている。しかし、実臨床における試験および現行の品質管理の導入成功における役割について検討した研究はほとんどない。

目的

マスク再処理における品質管理方策の実施成功、ならびに継続的な品質管理の重要性について実証すること。

方法

3 次医療センター 1 施設において前向き品質改善研究を実施した。全体で、医療従事者が装着した 3M 1860 マスクおよび Kimberly-Clark Tecnol PFR95 マスク 982 枚に対して、蒸気化過酸化水素ガスプラズマを用いた滅菌が行われた。マスク 265 枚に対して、滅菌後定性的フィットテスト(QFT)が行われた。米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)の実験室におけるマネキン試験を用いて、反復滅菌がマスクの濾過性能およびフィットに及ぼす影響を評価した。独自にデザインしたプラットフォームにより、臨床使用され再処理されたマスクの濾過効率を評価した。

結果

全体で、N95 マスク 255 枚に QFT が実施された。このうち 240 枚に処理後分析が行われ、内訳は 3M 1860 マスク 205 枚、PFR95 マスク 35 枚であった。3M マスク 25 枚(12.2%)および PFR95 マスク 10 枚(28.5%)は、処理後 QFT で失格となった。失格となったマスクの特徴として、マスクの変形(N = 3、すべて 3M マスク)、マスクの汚れ(N = 3)、ゴムバンドの緩み(N = 5、3 枚が PFR95 マスク)、ならびにマスクの縮みに対する懸念(N = 3、2 枚 が 3M マスク)などがみられた。NIOSH の試験から、滅菌 2 サイクル後にフィルタの濾過効率は 98%超に維持されていたが、マスクのゴムバンドの伸縮性は再処理後に 5.6%低下していたことが示された。

結論

本研究により、N95 マスクの消毒における品質管理の実施は成功していることが実証され、また実験室条件以外での実臨床における試験の重要性が強調されている。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント

これまで N95 マスクの再使用は考えられておらず、単回使用が基本であった。COVID-19 の流行により継続的な再使用が必要となり、再使用のための滅菌方法が模索されてきた。これまで蒸気化過酸化水素、紫外線照射、熱、過酸化水素ガスプラズマを使用した滅菌再生技術が報告されている。実際の現場で実施された本研究は、N95 マスクの再生のためにガスプラズマ滅菌の後、N95 マスクの品質管理として QFT を実施したところ、約 12%がフィットテスト不合格となった。その内訳は変形、化粧品等による汚れ、ゴム紐の伸縮性低下で、同時に濾過機能の低下を認めた。過去の FDA の緊急使用許可(EUA)は実験室データにもとづく再生方法であることが多く、実際の現場での使用状況を反映していない。マスク再生後の品質管理の継続的な実施は実際の現場で再使用する際には必須である。

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