フランスの大学病院におけるトコジラミの蔓延:制御戦略、経済的影響および展望★★

2022.08.16

Bed bug infestation in a French university hospital: control strategy, financial impact and perspectives

A. Gressier*, N. Galakhoff, P. Thuillier, V. Kerlan, V. Cogulet, M. Cosse, L. Daniel, M. Canevet, S. Cabon, A. Le Grand, R. Baron, P. Saliou
*Brest Teaching Hospital, France

Journal of Hospital Infection (2022) 126, 81-86




背景

海外旅行ならびに殺虫剤耐性の発現増加に伴い、2000 年代以降にトコジラミの再興が観察されており、世界的な公衆衛生上の問題となりつつある。報告される症例は依然として少ないが、病院やその他の医療施設も例外ではない。しかし、文献中には医療施設に関する特別の推奨は存在しない。

 

目的

French University Hospital Centre of Brest の 1 内科病棟における、2020 年 10 月の保有患者の入院が原因となったトコジラミの蔓延に関する筆者らの経験を報告すること。トコジラミの蔓延を制御するために用いた実用的な方法を記述し、このエピソードにかかった費用を評価し、リスク患者または既知のトコジラミ保有者に対する特別なケア手順を作成した。

 

結果

探知犬を用いた調査により、4 室で蔓延が明らかになった後に、同病棟におけるすべての治療を中止するという決定がなされた。治療中止は 24 日間に及んだ。この蔓延に伴う総費用は、約 400,000 米ドルと推定された。それ以外に蔓延の波は発生しなかった。制御戦略を向上させるために、トコジラミの既知の保有者である患者、または保有リスクを有する患者のケアを目的とした特別のプロトコールを作成した。

 

結論

医療施設におけるトコジラミの蔓延は、患者ケアおよび関連する経済的帰結に大きな影響を及ぼす。予防および教育の方針を立てることが、蔓延という現象の規模に対応するための必須の出発点である。

 

サマリー原文(英語)はこちら

 

監訳者コメント

トコジラミ(ナンキンムシとも呼ばれる)には、一般的なトコジラミ(Cimex lectularius)と熱帯トコジラミ(Cimex hemipterus)の 2 種類があり、前者は世界中の家庭で見られ、後者は熱帯・亜熱帯に主に生息する。幼虫は1 mmから成虫は 5 ~ 7 mm程度で、メスは一度に 5 ~ 8 個産卵し 1 ~ 2 週で生まれ、死ぬまでに 500 個の卵を産む。幼虫から成虫まで吸血する。殺虫剤耐性があり、DDT、カーバメート、有機リン剤、ピレスロイド系剤への耐性報告があり、卵には無効である。現時点で、人への感染症媒介の証拠はない、一旦、増えると個人では処理することはできず専門業者に依頼することとなる、ちなみに米国ペストマネジメント協会の報告では 2018 年に協会員の 59%、36%が各々長期療養施設と病院での依頼をうけたとのこと。日本においても決して他人事ではない。なお、本論文ではトコジラミの発見にトコジラミへの特別な嗅覚をもつ犬を採用している点が特徴的である。

 

参考)
 

1)日本ペストコントロール協会パンフレット(https://www.pestcontrol.or.jp/Portals/0/resources/pdf/2019/tokojiramipanhu.pdf
2)トコジラミの院内での対応(モダンメディア)(https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/2018_12/001.pdf

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