英国全土の医療施設の給水システムにおけるカプリアビダス属(Cupriavidus spp.)およびその他の水系感染微生物★★

2022.05.16

Cupriavidus spp. and other waterborne organisms in healthcare water systems across the UK

T. Inkster*, G. Wilson, J. Black, J. Mallon, M. Connor, M. Weinbren
*Queen Elizabeth University Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2022) 123, 80-86

 

背景

カプリアビダス属の Cupriavidus pauculus はまれな臨床病原体で、その感染症例は病院内の給水システムの汚染と関連付けられている。2018 年にグラスゴーの病院 1 施設で、C. pauculusおよびその他の水系感染微生物による 3 症例のアウトブレイクが報告された。

 

目的

スコットランドおよび英国の別の地域にある病院の給水システムにカプリアビダス属が存在するかどうかを明らかにすること、またその検出のためにもっとも適した検査方法を確認すること。本研究ではまた、これらの微生物が給水システムのどの部位で検出されるのか、ならびにその分離のための選択培地を開発できるのかについて確立することも目的とした。さらに、水サンプルを対象に他のグラム陰性水系感染微生物の存在について検査した。

 

方法

英国国民保健サービス(NHS)病院 10 施設から、給水システムの様々な部位の水サンプルを提供された。分離株をトリプトン大豆ブロス培地およびシュードモナス(Pseudomonas)分離寒天培地に播種し、さらにマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI-TOF MS)および 16S ポリメラーゼ連鎖反応法を用いて菌種を同定した。

 

結果

カプリアビダス属は検討とした病院 10 施設中 4 施設で検出され、分離株 5 株すべてが給水システムの末端から検出された。すべての病院で他の日和見前提配管病原体の所見が認められた。カプリアビダス属はトリプトン大豆ブロス培地を用いて同定され、一部の分離株はシュードモナス分離寒天培地で分離された。したがって、カプリアビダス属は、特に緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)について水を調べた時に偶発的に検出される可能性がある。

 

結論

カプリアビダス属の分離はグラスゴーのみで発生したことではなく、これらの細菌は英国の他の病院における給水システムにも認められる。臨床症例が発生した場合は、水の検査を行うことが推奨される。他の通常みられないまれな水系感染病原体による菌血症が発生した場合も、水の検査を検討すべきである。

 

サマリー原文(英語)はこちら

 

監訳者コメント

病院内の給水システムによる微生物汚染としては、緑膿菌を含むグラム陰性桿菌、非結核性抗酸菌、レジオネラ属などの報告があるが、Cupriavidus 属は、非発酵性のグラム陰性桿菌で過去にはBurkholderia 属や Pseudomonas 属として誤同定されていたが、MALDI-TOF MSの普及により病院の給水システムの汚染菌として、時に免疫不全患者における菌血症や肺炎の起炎菌として分離されるようになっており、近年臨床例での報告が増えている。耐性傾向が強いが、Cupriavidus 属では第 4 世代セフェム、ミノサイクリンなどへの感受性は保たれている。給水システムとの関連性が強いため、本菌が検出された場合には感染源の検索対象として水道水等の水廻りも視野に入れる必要がある。

 

注)MALDI-TOF MS:マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析法

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