ロンドンの大規模新生児病棟の医療従事者におけるPanton-Valentine leukocidin(PVL)産生メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)によるアウトブレイク:集団抑制療法の失敗後の標的を絞った抑制療法の成功★★
Healthcare-worker-associated outbreak of Pantone-Valentine-leukocidin-producing meticillin-sensitive Staphylococcus aureus in a large neonatal unit in London: successful targeted suppression therapy following failure of mass suppression therapy J. Hatcher*, S. Godambe, H. Lyall, L. Tyszczuk, F. Stubbs, N. Cummings, K. Sheils, C. Hughes, T. Kadhani, S. Atkin, N. Elaby, B. Pichon, B. Patel, E.T. Brannigan *Great Ormond Street Hospital for Children NHS Foundation Trust, UK Journal of Hospital Infection (2022) 122, 148-156
背景
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は医療関連感染症の主要な原因であり、アウトブレイクが新生児病棟で発生しており、医療従事者の保菌がみられている。
目的
新生児集中治療室におけるPanton-Valentine leukocidin産生メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(PVL-MSSA)によるアウトブレイクについて記述すること。
方法
多診療科によるアウトブレイク制御のための調査。
結果
16 か月の期間にわたり、新生児 7 例が PVL-MSSA 陽性であると同定された。分離株は、血液培養(2 例)、鼻咽頭吸引物(1 例)、および直腸スクリーニングスワブ(4 例)で同定された。疫学および全ゲノムシークエンシングのデータから、長期保菌者が感染源である可能性が最も高いことが示唆された。スタッフに対して 2 回にわたる集団での抑制(除菌)療法を、最初はクロルヘキシジンを用いて、次いでオクテニジンベースのレジメンにより実施したにもかかわらず、陽性患者の新たな同定が続いた。その後、スタッフのスクリーニングにより医療従事者 1 名に PVL-MSSA のアウトブレイク株の保菌が認められた。このスタッフは、強化スクリーニングを受け、その後に抑制(除菌)療法を受けた。本稿執筆の時点で、新規症例は認められていない。集団での抑制(除菌)療法の遵守率は 95%超であり、実施後のスタッフに対する満足度調査では、大部分のスタッフが実施されたステップに賛成しており、有害反応の発現率は低かった。
結論
黄色ブドウ球菌によるアウトブレイクでは医療従事者の保菌がみられることが多く、新生児病棟のような環境内で管理することは困難である。本研究は、アウトブレイクの同定およびマッピングにおける全ゲノムシークエンシングの有用性を示している。同様のアウトブレイクでは、対象を絞ったスタッフのスクリーニングを検討することが推奨される。このような状況では、スタッフの協力および遵守のレベルが高くても、集団での抑制(除菌)療法は効果的な戦略ではない。
監訳者コメント:
黄色ブドウ球菌によるアウトブレイクにおいては、供給源が環境である場合と、患者または医療従事者の保菌による場合が考えられるが、本事例からの学びとして、①医療従事者のスクリーニング対策の確立、②アウトブレイクに関連する異常な菌種が検出された時の検知能力、③全ゲノム解析による原因菌の解析と感染経路の推定、④一律の集団抑制療法はすべきでないこと、④発生時には多様な調査チームと過去に経験のある施設とのネットワークによる情報収集、が必要であると述べている。しかしながら、全ゲノム解析は、設備や検査費用、さらに結果報告までの期間(適時の報告が難しい)の面において日本では現時点では容易ではなく、この点は今後の課題である。
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