前に病室に在室していた患者からのノロウイルス感染症の環境伝播リスク
Risk of environmental transmission of norovirus infection from prior room occupants C-J. Fraenkel*, B. Böttiger, A. Söderlund-Strand, M. Inghammar *Region Skåne, Sweden Journal of Hospital Infection (2021) 117, 74-80
背景
ノロウイルスによる環境汚染は、病院内でのさらなる伝播の重要な発生源の 1 つと考えられている。
目的
ノロウイルス感染症患者が以前使用していた清掃済みの病室における、ノロウイルス獲得リスクを検討すること。現在ノロウイルス感染症を有する同室患者がいることのリスクも評価した。
方法
2013 年から 2018 年の、スウェーデン南部における 5 つの感染症病棟の 33,788 の在室から成る後向きコホートにおいて、曝露された病室または曝露されていない病室への入院後のノロウイルス感染症の獲得リスクを、年齢、保菌圧および同室患者を調整し、単変量・多変量統計解析によって解析した。病室を介した伝播の疑いに関与するノロウイルス株の RNA シークエンシングも実施した。
結果
ノロウイルス感染症の患者が前に在室していた部屋に曝露された患者 1,106 例のうち 5 例と、非曝露群のうち 49 例が、ノロウイルス感染症を獲得した。ノロウイルス獲得との関連性は単変量解析では認められたが(オッズ比[OR]3.3、P =0.01)、潜在的な交絡因子を調整した場合には認められなかった(OR 1.9、P = 0.2)。ノロウイルスのサンプルのシークエンシングによって、ノロウイルス感染症を獲得した曝露患者 5 例のうち 2 例のみが前の在室患者と同一株に感染し、病室を介した伝播リスクは 0.2%(95%信頼区間 0.05 ~ 0.78%)と推測されることが示された。ノロウイルスによる症状が回復して 48 時間以上たった同室患者がいる相部屋の患者 52 例のうち、ノロウイルス感染症を獲得した患者はいなかった。
結論
絶対的には、ノロウイルスの病室を介した伝播リスクは低い。症状回復後、48 時間以上の隔離の中止をすれば十分であると思われる。
監訳者コメント:
本論文と同じようなコンセプトで、その部屋に以前に入院していた患者が C. difficile やMRSA などの保菌者だった場合、新たな患者の同一耐性菌の保菌リスクが上昇するという論文があったな…と思いながら読み始めたが、ノロウイルスはそこまでリスクがない、という内容でホッとした。やはり細菌(特に芽胞を形成する細菌)とノロウイルスでは環境中の残存性能が違うのだろう。かといって退院時清掃を軽視して良いというわけではないが。
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