最小発育阻止濃度より低濃度のクロルヘキシジンとムピロシンがメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus)臨床株のバイオフィルム形成に及ぼす影響★
Effects of subinhibitory concentrations of chlorhexidine and mupirocin on biofilm formation in clinical meticillin-resistant Staphylococcus aureus
K.-H. Park*, M. Jung, D.Y. Kim, Y.-M. Lee, M.S. Lee, B.-H. Ryu, S.I. Hong, K.-W. Hong, I.-G. Bae, O.-H. Cho
*Kyung Hee University Hospital, Republic of Korea
Journal of Hospital Infection (2020) 106, 295-302
背景
最小発育阻止濃度(MIC)より低濃度の抗菌剤が黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のバイオフィルム形成能に及ぼす影響については、さらに研究を行う必要がある。
目的
MIC より低濃度のクロルヘキシジンとムピロシンがメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の臨床分離株のバイオフィルム形成に対して及ぼす影響を検討すること。
方法
MRSA 分離株は 3 次病院 1 施設の血流感染症の患者から採取した。バイオフィルム形成の基礎レベルと MIC より低濃度のクロルヘキシジンとムピロシンによるバイオフィルム誘導を、クリスタルバイオレットで染色したバイオフィルムの質量測定により評価した。
結果
試験した MRSA 分離株 112 株のうち 63株(56.3%)がシークエンス型(ST)5 系統株に、44株(39.3%)が ST72 系統株に属しており、これらは韓国の医療関連および市中関連の優勢なクローンである。ST5 分離株は ST72 分離株と比較して、クロルヘキシジンの MIC が 4 以上(73.0% vs 29.5%)、ムピロシンへの耐性を有する(23.8% vs 0%)、agr の機能機能不全を有する(73.0% vs 9.1%)、qacA/B 遺伝子を有する(58.7% vs 2.3%)という傾向が強かった。ST72 分離株のバイオフィルム形成能の基礎レベルは ST5 分離株と比較してより高いことが多かった(77.3% vs 12.7%)。MIC より低濃度のクロルヘキシジンとムピロシンは、全分離株のそれぞれ 56.3%、53.6%においてバイオフィルム形成を促進した。バイオフィルム誘導は ST72 分離株(クロルヘキシジン 15.9%、ムピロシン 27.3%)よりも ST5 分離株(クロルヘキシジン 85.7%、ムピロシン 69.8%)においてより高頻度に見られた。
結論
MIC より低濃度のクロルヘキシジンとムピロシンは MRSA の臨床分離株の半数においてバイオフィルム形成を促進した。MRSA ST5 株のバイオフィルムはクロルヘキシジンへの曝露後に他の細菌の病原因子と一緒に誘導される可能性があり、それが医療環境においてこのクローンに生存上の利点を与えているかもしれないことが、我々の結果から示唆される。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
マクロライド系抗菌薬などは、低濃度で緑膿菌のバイオフィルム産生を抑制することが知られている。本論文もてっきりそういう話だと思っていたら、どうやら逆にバイオフィルム産生を促進するらしい。これは驚いた。
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