呼吸器リスクを有する小児科患者におけるヒトボカウイルスおよびヒトライノウイルスによる院内感染症★★
Nosocomial infection by human bocavirus and human rhinovirus among paediatric patients with respiratory risks
H. Kobayashi*, M. Shinjoh, K. Sudo, S. Kato, M. Morozumi, G. Koinuma, T. Takahashi, Y. Takano, Y. Tamura, N. Hasegawa
*Keio University School of Medicine, Japan
Journal of Hospital Infection (2019) 103, 341-348
背景
迅速検査により検出されない呼吸器ウイルスによる院内感染症は、診断されないことが多い。背景疾患を有する小児患者にとって、院内感染症は致死的となり得る。
目的
迅速検査により検出されない呼吸器ウイルスによる感染症発症と、呼吸器リスクとの関係を明らかにすること、および感染制御の管理を向上させること。
方法
日本の 3 次病院の小児科病棟における、ヒトボカウイルスおよびヒトライノウイルスによる院内感染症のエピソード 2 件について後向きに検討した。感染制御上の方針について決定するために、ウイルスの同定は PCR 法によって行った。同じ種のウイルスが異なる患者で検出された場合には、その相同性について解析した。呼吸器リスクと発症との関連は、統計解析によって評価した。
結果
ヒトボカウイルスおよびヒトライノウイルスによるアウトブレイクにおいて、呼吸器リスクを有する患者のそれぞれ 3 例および 4 例が呼吸器症状を発症した。ヒトボカウイルスアウトブレイクの患者 2 例およびヒトライノウイルスアウトブレイクの全 4 例で、ヌクレオチド配列が系統的に近縁であった。両方のアウトブレイクにおいて、呼吸器リスクを有する患者で呼吸器症状を発症したのは、全くリスクのない患者と比べて、有意に多かった(それぞれP = 0.035 および 0.018)。発症患者を呼吸器リスクを有する患者から隔離したところ、さらなる院内感染症の発生はなかった。
結論
呼吸器リスクを有する患者は発症しやすく、かつこれらのウイルスの院内伝播による重症の症状を来たしやすい。小児科病棟では、標準予防策だけでなく、呼吸器症状を有する患者は、たとえ迅速検査で陰性であっても隔離するという方針をとるべきである。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
ウイルス性呼吸器感染症のうち、抗原検査で診断が難しいウイルスによる場合、院内伝播の早期検出と対策の開始は、抗原検査が利用できるものに比べて遅くなりやすい。今回の国内の大学病院におけるボカウイルス・ライノウイルスによる事例では、このような早期検出が迅速になされ、それを感染対策にすみやかにフィードバックさせえたことが、伝播を最小限にできた要因として重要であろう。現状では呼吸器ウイルスの遺伝子検出を迅速に行える施設は限られているが、我々が日常経験的に行っている「症状とリスクを勘案した早期隔離」が裏付けられたと言ってもよいであろう。
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