心臓手術前の全患者に対する黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の鼻腔内保菌に対する普遍的除菌の 13 年にわたる経験:準実験研究(a quasi-experimental study)
Thirteen-year experience with universal Staphylococcus aureus nasal decolonization prior to cardiac surgery: a quasi-experimental study
A. Lemaignen*, L. Armand-Lefevre, G. Birgand, G. Mabileau, I. Lolom, W. Ghodbane, M-P. Dilly, P. Nataf, J-C. Lucet
*Hȏpital Bichat-Claude Bernard, France
Journal of Hospital Infection (2018) 100, 322-328
緒論
心臓手術後の胸骨創感染症は重度の合併症である。予防策をとる中で、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の鼻腔内保菌に対する術前除菌が有効であることが、近年示されている。本準実験研究では、術前除菌が黄色ブドウ球菌に関連する胸骨創感染症の発生率に及ぼす影響を、19 年間にわたる前向きサーベイランスに基づいて評価した。
方法
分割による負の二項回帰を用いて、1996 年から 2014 年にフランスの大学病院 1 施設において、心臓手術後に再手術を必要とした黄色ブドウ球菌による縦隔炎の発生率の経時的変化を分析した。ムピロシンによる普遍的鼻腔内除菌が 2001 年 12 月に導入された。術前の黄色ブドウ球菌鼻腔内保菌と黄色ブドウ球菌による胸骨創感染症との関連を、2006 年から 2012 年の期間について分析した。
結果
心臓手術を受けた患者 17,261 例のうち、565 例(3.3%)が胸骨創感染症を発症し、181 例(1%)が黄色ブドウ球菌によるものであった。黄色ブドウ球菌による縦隔炎の発生率は、本研究期間を通じて有意に低下した(1996 年から 2001 年の 1.43% に対して、2002 年から 2005 年および 2006 年から 2014 年でそれぞれ 0.61% および 0.64%、P < 0.001)。分割による解析では、2002 年に有意な分割点が認められ、これは除菌の導入と対応していた。この介入にもかかわらず、術前の鼻腔内保菌(補正オッズ比 2.2、95%信頼区間 1.2 ~ 4.2)は、肥満、重篤な術前状態、冠動脈バイパス術、および弁置換術と冠動脈バイパス術の併用とともに、依然として黄色ブドウ球菌による縦隔炎の有意なリスク因子であった。
結論
心臓手術前の鼻腔内保菌に対する普遍的除菌は、黄色ブドウ球菌による縦隔炎を減らす上で効果的であった。黄色ブドウ球菌の鼻腔内保菌は、依然として黄色ブドウ球菌に関連する胸骨創感染症のリスク因子であった。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
19 年間という長期間にわたる前向きのサーベイランスの結果である。すでに既存の研究で心臓外科手術前の黄色ブドウ球菌の除菌により、術後の黄色ブドウ球菌による創部感染症が減少することは何度も報告されているが、除菌をしたとしても依然として黄色ブドウ球菌の鼻腔内保菌が、術後の黄色ブドウ球菌創部感染症のリスク因子であった。最近の研究では黄色ブドウ球菌の除菌治療を延長することで、さらに黄色ブドウ球菌による創部感染が減少するという報告もある1)。「除菌するか、しないか」の次の段階として「どう除菌するか」が議論される時期に来ているといえよう。
1) Saraswat MK, et al. Preoperative Staphylococcus aureus screening and targeted decolonization in cardiac surgery. Ann Thorac Surg 2017;104:1349-56.
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