病院の経営形態:院内感染症発生率のリスク因子か?★
Hospital ownership: a risk factor for nosocomial infection rates?
C. Schröder*, M. Behnke, C. Geffers, P. Gastmeier
*Charité Berlin, Germany
Journal of Hospital Infection (2018) 100, 76-82
背景
一部の国ではこれまで、病院の経営形態と医療関連感染症の発生率との関連が報告されている。
目的
ドイツにおける病院の経営形態と医療関連感染症の発生率との関連を検討すること。
方法
ドイツの院内感染症サーベイランスシステム(KISS)の 5 つの要素について、2014 年から 2016 年の期間における病院の経営形態の影響を分析した。エンドポイントは、1,000 患者日あたりの人工股関節置換術および大腸手術後の人工呼吸器関連肺炎、中心静脈カテーテル関連血流感染症、尿道カテーテル関連尿路感染症、手術部位感染症(SSI)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)感染症、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症、および擦式手指消毒薬消費量などとした。病院の 3 つの経営形態(公的病院、非営利組織の病院および私立病院)について、単変量および多変量解析を用いて分析した。
結果
すべての要素において、3 つの経営形態による病院の分布は類似していた。全体で、661 の集中治療室、149 の大腸手術実施部門、および 349 の人工股関節置換術実施部門を解析に含めた。さらに、568 の病院が自院の MRSA 感染症発生率を、236 の病院が自院の C. difficile 感染症発生率を、また 1,833 の集中治療室および 12,934 の非集中治療室がその擦式手指消毒薬消費量のデータを提供した。全体的に、集中治療室については病院の経営形態による差は比較的小さく、有意ではなかった。多変量解析において、公的病院では人工股関節置換術後の SSI 発生率が低かった(オッズ比 0.80、95%信頼区間 0.65 ~ 0.99)。
結論
ドイツにおいて、病院の経営形態が医療関連感染症の発生率に大きな影響を及ぼしていることは認められなかった。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
これまで経営形態により医療関連感染症の発生率が異なるとの報告もあるが、多くの研究では経営形態が考慮されていないのが現状である。ドイツの医療保険制度は 2009 年より「国民皆保険体制」となり、連帯原則と現物給付が基本構造であり、診療報酬は実際に行われた診療行為に関わらず定額を支払う包括化が進められ、入院療養給付は「診断群分類(DRG:Diagnosis Related Groups)」に基づく包括的な報酬基準により定額が支払われており、保険制度と診療報酬による病院間差はない。2016 年のデータでは、ドイツには病院が1,951 施設あり、大学病院などの公的病院、教会立や赤十字などの非営利組織の病院、私立病院がそれぞれおおよそ 3 分の 1 ずつであるが、ベッド数では全体の半数を公的病院が占めている。データ収集が自主的参加であるため、感染対策への意識の高い病院による参加の影響も考慮すべきかもしれない。実際 MRSA や CDI のデータ収集に参加したのは、それぞれ全病院の 4 分の 1、9 分の 1 であった。
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