メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)獲得に対する手袋およびガウンによる普遍的介入の相対的有益性の分析
Deconstructing the relative benefits of a universal glove and gown intervention on MRSA acquisition
A.D. Harris*, D.J. Morgan, L. Pineles, E.N. Perencevich, S.L. Barnes
*University of Maryland School of Medicine, Baltimore, MD, USA
Journal of Hospital Infection (2017) 96, 49-53
背景
20 施設を対象に手袋およびガウンの普遍的着用の有益性(Benefits of Universal Glove and Gown;BUGG)を検討した研究では、集中治療室(ICU)での患者とのあらゆる接触に対して手袋およびガウンを着用した場合、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の獲得率の低下が認められた。防護用具としての手袋およびガウン、手指衛生の改善、ならびに医療従事者と患者との接触率低下の相対的重要性は不明である。
目的
BUGG 研究で認められた獲得率低下に対し、手指衛生の改善、接触率低下、ならびに手袋およびガウンの普遍的着用が寄与した割合をエージェントベースシミュレーションモデリングを用いて明らかにすること。
方法
ICU における MRSA 伝播動態をシミュレーションするために既存のエージェントベースモデルを修正し、施設固有のデータを用いてキャリブレーションを行った。モデルの検証は BUGG 研究で収集されたデータを用いて実施、完了した。2k 完全実施要因配置計画を実施し、MRSA 獲得率において前述のそれぞれの要因を改善することにより相対的有益性を定量化した。
結果
要因配置計画ポイントおよび介入施設ごとにシミュレーションによる再現を 40 回行った。そのうち MRSA 獲得率低下の約 44%は手袋およびガウンの普遍的着用、38.1%は既存患者の病室における手指衛生遵守の改善、14.5%は医療従事者と患者との接触率低下によるものであった。
結論
数学的モデリングにより、BUGG 研究における MRSA 獲得率低下の第一要因は、手袋およびガウンの防護効果であり、続いて手指衛生の改善、医療従事者と患者との接触率低下であることが判明した。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
Harris らはすべての患者接触時に手袋およびガウンを装着する「ユニバーサルグラブ・ガウン」の研究結果を定期的に報告している。特に 2013 年には多施設研究で MRSA を含む多剤耐性菌の獲得率が低下することを JAMA という一流紙に報告した。本研究はその結果を「なぜ低下したのか」数学的に解析した結果である。
低下の主因としては手袋およびガウンの着用を挙げているが、次いで手指衛生遵守率の改善を挙げている。しかし彼らは「部屋の出入りの際の手指衛生遵守率」のみを観察しており、WHO の 5 つのタイミングでいう「清潔・無菌操作の前」や「体液曝露の後」の手指衛生は観察していない。部屋の出入りの際の手指衛生を手袋着用で確かに耐性菌の保菌率は減少するかもしれないが、清潔・無菌操作の前や体液曝露の後の手袋交換や手指衛生がないと、当該患者の感染症発生率を上昇させる危険性がある。ユニバーサルグラブ・ガウンの検討においては、特に手指衛生について WHO の 5 つのタイミングに基づいた評価が必要ではないだろうか。
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