挿管患者に対する先制攻撃的接触予防策による集中治療室における医療関連メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の伝播および感染の減少★
Pre-emptive contact precautions for intubated patients reduced healthcare-associated meticillin-resistant Staphylococcus aureus transmission and infection in an intensive care unit
A. Matsushima*, O. Tasaki, K. Tomono, H. Ogura, Y. Kuwagata, H. Sugimoto, T. Hamasaki
*Osaka University Graduate School of Medicine, Japan
Journal of Hospital Infection (2011) 78, 97-101
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)による医療関連感染は、集中治療室(ICU)では依然として重大な懸念事項である。著者らの ICU サーベイランスのデータから、気管内挿管患者の MRSA 獲得リスクは非挿管患者の 8 倍であることが判明した。そこで、すべての挿管患者に対して先制攻撃的接触予防策を実施することにより、ICU の医療関連 MRSA 感染が予防できるという仮説を立てた。2 日を超えて当 ICU に在室した患者を本研究の対象とした。研究期間を 2 期に分け、2004 年(第 1 期)には MRSA 患者のみに対して接触予防策を適用し、2005 年から 2007 年(第 2 期)には MRSA 感染の有無にかかわらず、すべての挿管患者に対して接触予防策を適用した。登録時の監視培養または臨床検体培養で MRSA が検出された患者を「入院時 MRSA 陽性」と定義した。その他の MRSA 陽性の結果を「医療関連 MRSA 伝播」と定義した。医療関連 MRSA 感染の診断は、全米病院感染サーベイランスのマニュアルに準拠した。患者数は第 1 期 415 例、第 2 期 1,280 例であった。挿管患者では、医療関連 MRSA 感染率が第 2 期に有意に減少した(第 1 期 12.2%、第 2 期 5.6%、P = 0.015)。第 2 期には入院時 MRSA 陽性患者率が有意に増加した(第 1 期 2.9%、第 2 期 6.1%)にもかかわらず、全患者の医療関連 MRSA 感染の発生は 1,000 患者日あたり 3.6 から 2.3 に減少した(P < 0.05)。挿管患者に対する先制攻撃的接触予防策は、ICU における医療関連 MRSA 感染の減少に有用であると考えられる。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
先制攻撃的接触予防策を実施することにより、入院時 MRSA 陽性患者において検体採取から検査結果が得られるまでの間の MRSA 伝播を抑制することができる。本研究は 17 床の ICU で行われ、ベッド間隔も十分にあり患者同士の接触はない。医療従事者や器具による MRSA 媒介が多く発生していることを示唆している。本来、患者接触の前後に手指衛生を実施すれば防げるはずの MRSA 伝播を、気管内挿管患者に限って接触予防策を全員に行うことによって、効果的に MRSA 伝播を抑制した興味深い論文である。
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