入院患者におけるエルタペネム耐性肺炎桿菌(ertapenem-resistant Klebsiella pneumoniae)のリスク因子および臨床的重要性★★
Risk factors and clinical significance of ertapenem-resistant Klebsiella pneumoniae in hospitalised patients
G.B. Orsi*, A. Garcia-Fernandez, A. Giordano, C. Venditti, A. Bencardino, R. Gianfreda, M. Falcone, A. Carattoli, M. Venditti
*Sapienza University, Italy
Journal of Hospital Infection (2011) 78, 54-58
エルタペネム耐性肺炎桿菌(ertapenem-resistant Klebsiella pneumoniae;ER-Kp)は、新興の医療関連病原体である。ER-Kp 感染に関連するリスク因子を特定するために、2008 年 7 月から 2009 年 12 月に肺炎桿菌が分離された患者 100 例の記録をレビューした。これらの内訳では、ER-Kp 38 例(感染 28 例、保菌 10 例)、エルタペネム感性肺炎桿菌(ES-Kp)62 例(感染 43 例、保菌 19 例)であった。ER-Kp 25 株の複数部位塩基配列タイピング(MLST)およびポーリン遺伝子解析を実施したところ、24 株は ST37 遺伝子系統に属しており、新規の OmpK36 変異体を発現するが OmpK35 を発現していないことが示された。血流感染症(BSI)患者 25 例中 13 例(52%)がブレイクスルー菌血症※を発症した。ER-Kp BSI 患者 9 例中 5 例がブレイクスルー菌血症を合併して、このうち 4 例がカルバペネム投与中に発症した。ES-Kp BSI 患者 16 例中 8 例(50%)がブレイクスルー菌血症を発症したが、カルバペネム投与中に発症したのは 1 例(12%)のみであった。ロジスティック回帰分析により ER-Kp 感染の独立リスク因子であることが示されたのは、カルバペネム系(オッズ比[OR]12.9、95%信頼区間[CI]3.09 ~ 53.7、P < 0.001)、第 2 世代セファロスポリン系(OR 11.8、95%CI 1.87 ~ 74.4、P < 0.01)、内視鏡検査(OR 5.59、95%CI 1.32 ~ 23.6、P < 0.02)、急性腎不全(OR 5.32、95%CI 1.13 ~ 25.1、P = 0.034)、および第 3 世代セファロスポリン(OR 4.15、95%CI 1.09 ~ 15.8、P < 0.01)であった。今回の結果から、特定の抗菌薬、特にカルバペネムおよびセファロスポリン系の投与歴が ER-Kp 保菌・感染の主要な独立リスク因子であることが確認された。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
β-ラクタム抗菌薬を分解する酵素であるβ-ラクタマーゼは、アミノ酸配列に基づく Ambler 分類によりクラス A からクラス D に分類される。その中でクラス A、C、D に属するβ-ラクタマーゼは、活性中心にセリン残基を有するセリン・ペプチダーゼであり、一方、クラス B は活性中心に亜鉛分子を要求するメタロ-β-ラクタマーゼである。特にクラス A、D の中で第 2、3、4 世代セファロスポリン薬までを分解する能力を獲得した場合を基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)といい、細菌の染色体上だけではなくプラスミド上にもコードされることから、異なる菌株や菌種に耐性因子が伝播されてしまう特徴がある。また、クラス C に分類されるβ-ラクタマーゼには、腸内細菌科やブドウ糖非発酵菌の染色体上に存在して、セフェムの存在下でその大量産生が誘導されることから第 2、3、4 世代セファロスポリン薬まで分解する AmpC があり、抗菌薬投与により誘導される耐性であるため注意が必要である。
ESBL 産生菌および AmpC 産生菌に対して、ほとんどの場合でカルバペネム系が有効であるが、最近では北米大陸などからクラス A に属するプラスミド性のカルバペネム分解酵素 KPC が報告されている。肺炎桿菌(K. pneumoniae)による産生菌が多いが、その他の腸内細菌科にも耐性伝播を示しており、世界的にも拡大する傾向があることから注意が必要である。
エルタペネムは、わが国では市場になく使用されていないカルバペネム系抗菌薬であるが、抗緑膿菌活性を欠き、血中半減期が長いという特徴がある。米合衆国 CLSI 2011 年度改訂では、腸内細菌科のカルバペネム系に対するブレイクポイントが変更となり、耐性と判断される濃度が引き下げられたことにより、変法 Hodge 試験を実施することが必ずしも求められなくなった。腸内細菌科においてカルバペネム系への耐性が進行していることの現れとも受け取られる。
監訳者注:
※ブレイクスルー菌血症(breakthrough bacteremia):この研究では、グラム陰性菌をカバーできる抗菌薬を投与してから 48 時間以降に菌血症が発症することと定義されているが、一般的には抗菌療法を実施しているにも関わらず出現した菌血症をいう。
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