医療環境におけるクロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)および抗菌薬耐性菌の消化管感染を予防するための介入をシミュレートする:モデル較正研究

2026.09.16
☆

Simulating interventions to prevent gastro-intestinal transmission of Clostridioides difficile and antimicrobial-resistant bacteria in healthcare settings: a model calibration study

A. Gerada*, Y. Zhong, C. Brookfield, A. Howard, N. Reza, C. Rosato, P.L. Green, W. Hope
*University of Liverpool, United Kingdom

Journal of Hospital Infection (2026) 175, 1-8

背景

クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)や抗菌薬耐性菌などの病原体に起因する院内感染症は、医療制度に重大な負担をかける。感染を抑制するために感染予防・制御(IPC)策が用いられるが、個々の介入の影響を定量することは依然として困難である。

方法

本研究では、病院環境における抗菌薬選択圧下での病原体の糞口感染をシミュレートする、エージェントベースモデルを報告する。近似ベイズ計算を用いて、このモデルを C. difficile アウトブレイクに合わせて較正した。

結果

較正されたモデルは観察されたアウトブレイクのダイナミクスを再現し、院内感染症発生率は実際のアウトブレイクでの発生率と同程度であった。シミュレートしたシナリオにおいて、アウトブレイク前のベースライン発生率は中央値で 1,000 患者日あたり 1.22 例(四分位範囲[IQR] 1.02 ~ 1.44)であったのに対し、実際の発生率は 1,000 患者日あたり 1.25 例(IQR 0.94 ~ 1.56)であった。アウトブレイク期間中、シミュレーションによる発生率の中央値は 2.42 例(IQR 1.51 ~ 3.92)であったのに対し、実際の発生率中央値は 3.74 例(IQR 3.32 ~ 4.41)であった。感度分析により、トイレの清掃頻度が、院内感染症の減少に最も大きな影響を及ぼすことが明らかになった。抗菌薬適正使用支援および患者の個室隔離によっても発症例が減少した。

結論

このエージェントベースモデルは、IPC 介入を評価し、アウトブレイク準備を支援するための柔軟な枠組みを提供する。このアプローチは、バンコマイシン耐性腸球菌(Enterococcus)やカルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌などの、糞口感染するその他の病原体に容易に適合させることができる。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント:
C. difficile の院内伝播を再現するエージェントベースモデルを構築し、感染対策を個別に変化させた場合の影響を検討した研究である。シミュレーションではトイレ清掃の頻度・効果の改善が院内感染を最も大きく減らし、抗菌薬使用の削減や感染患者の個室への早期移動にも効果がみられた。複数の対策を同時に行う実際のアウトブレイクでは各対策の効果を切り分けにくく、このようなモデルで事前に優先順位を検討する発想は興味深い。ただし、感染経路を主に汚染トイレとそれ以外に単純化しており、職員の手を介した伝播などは組み込まれていないため、「トイレ清掃が最重要」と臨床的に証明した研究ではない。現時点では直接対策を変える根拠というより、CDI や VRE、CPE のアウトブレイク対策を定量的に考える新しい手法として参考になる論文である。

同カテゴリの記事

2011.03.03
☆

Innate resistance to sporicides and potential failure to decontaminate

2025.12.13
☆
Reducing environmental contamination during reprocessing of highly contaminated flexible bronchoscopes from the intensive care unit

H.L. Rao*, L.J. Gao, X.L. Zheng, J.R. Wei, M. Yue, B. Li, Z.H. Wang, M. Yang, X.M. Ren
*The First Affiliated Hospital of Army Medical University, People’s Republic of China

Journal of Hospital Infection (2025) 166, 152-160
2024.03.31
☆
Emergence and dissemination of epidemic-causing OXA-244 carbapenemase-producing Escherichia coli ST38 through hospital sewage in Norway, 2020–2022

D.H. Grevskott*, V. Radisic, F. Salvà-Serra, E.R.B. Moore, K.S. Akervold, M.P. Victor, N.P. Marathe
*Institute of Marine Research (IMR), Norway

Journal of Hospital Infection (2024) 145, 165-173



2019.09.29
☆

Effect of disinfectant formulation and organic soil on the efficacy of oxidizing disinfectants against biofilms

2013.01.30
☆

Outbreak of skin and soft tissue infections in a hospital newborn nursery in Italy due to community-acquired meticillin-resistant Staphylococcus aureus USA300 clone