ポルトガルの長期医療施設と急性期医療施設の室内空気の多剤耐性評価★
Multidrug resistance assessment of indoor air in Portuguese long-term and acute healthcare settings C. Santos-Marques*, C. Teixeira, R. Pinheiro, W.M. Brück, S. Gonçalves Pereira *Faculty of Pharmacy of University of Porto, Portugal Journal of Hospital Infection (2025) 159, 115-123
背景
病院以外の医療施設における病原体と多剤耐性(MDR)が溜まっている空気に関する知識は乏しい。
目的
ポルトガルの長期医療施設と中央病院におけるこれらの特徴を調査する。
方法
空気の検体を採取し、微生物量(細菌と真菌)を測定した。細菌の分離株を無作為に選択し、更に特徴を明らかにした。特に、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析法による同定、抗菌薬感受性検査、および基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ遺伝子、カルバペネマーゼ遺伝子、mecA 遺伝子のポリメラーゼ連鎖反応によるスクリーニングを行い、後者の結果が陽性のものについては、RAPD(random amplified polymorphic DNA)プロファイルの評価を行った。
結果
合計 192 検体が採取された(長期医療施設 86 検体、中央病院 106 検体)。長期医療施設は、細菌量が統計的有意に多かった。中央病院の細菌量と真菌量は、入院患者の場所の方が、外来患者や非患者施設より統計学的に有意に低かった。合計 164 株の細菌が同定(MALDI-TOF で 78 株、推定が 86 株)され、大多数は Staphylococcus 属であった(長期医療施設から 42 株、中央病院から 57 株)。どちらの施設でも、薬剤耐性率が最も高かったのは、エリスロマイシンで、最も低かったのはバンコマイシンであった。18 株(11%)が MDR と分類(長期医療施設から 9 株、中央病院から 9 株)され、MDR Staphylococcus属の 7 株(長期医療施設から 4 株、中央病院から 3 株)が mecA 陽性であった。非MDR Staphylococcus属の 9 株(長期医療施設5 株、中央病院 4 株)にも mecA が陽性であった。
結論
本研究は、医療施設の室内空気が MDR 病原体や薬剤耐性遺伝子の重要な溜まり場になり得ることを明らかとした。また、長期医療施設は病院と比較して空気の質が悪く治療エリアと比較して支援エリアより悪いようである。これは、まだ未知の感染経路の可能性を示唆しているのかもしれない。
監訳者コメント :
日本の療養型病床群とポルトガルの LTHU では設備基準や人員配置が異なるため、空調システムや感染対策レベルに差がある可能性がある。日本では診療報酬制度により療養型施設の医師配置が少なく、感染対策の専門性が不足する懸念がある。また日本では外来での抗菌薬処方率が国際的に高いため地域全体の薬剤耐性菌保有率がポルトガルと異なる可能性がある。そのような背景の違いはあるものの、日本も急速な高齢化により長期療養型施設が増加している中、本研究が示すように、これらの施設が想定以上に多剤耐性菌の温床となる可能性があることは重要な知見と思われる。特に空気中の MRSA 関連 mec A 遺伝子の検出は、従来の接触感染対策だけでは不十分であることを示唆していると思われる。これを日本で実装するには本研究で提案される定期的な空気サンプリングは日本の療養型施設では人員・予算的に困難な場合が多く、より簡便で実用的な監視方法の開発が必要となると思われる。
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