クイーンズランド保健部に所属する病院において全国的な抗菌薬適正使用基準の導入が及ぼす影響:抗菌薬使用のパターンを探索する生態学的観察研究★

2024.09.03

Impact of the introduction of the national antimicrobial stewardship standard across Queensland Health hospitals: ecological observational study exploring patterns of antimicrobial use

C. Holland*, E. Ballard, A. Griffin, S. Coulter, T. Yarwood, C. Heney, M. Young
*Metro North Hospital and Health Service, Australia

Journal of Hospital Infection (2024) 151, 60-68

背景

抗菌薬適正使用支援プログラムは、新たな抗菌薬耐性の脅威に取り組むための不可欠なツールである。

目的

クイーンズランド州の公立病院において、国立安全品質医療サービス(National Safety and Quality Health Service)が作成した抗菌薬適正使用基準導入後の抗菌薬使用パターンにおける変化を明らかにすること。

方法

クイーンズランド州の公立病院において、クイーンズランド保健部の MedTRx データベースを用いた生態学的レベルでの後向き介入前後研究を実施した。線形回帰モデルを用いて分割時系列分析を実施し、ピアグループ分類により層別化した病院グループについて、四半期ごとに集約した 1,000 患者年あたりの 1 日規定用量(DDD)による抗菌薬使用率を明らかにした。抗菌薬適正使用支援プログラム実施に関して、基準の導入に応じて事前に規定された時点・期間について分析した。

結果

介入後期間では、グループ A の主要な紹介・公立急性期病院において、全身抗菌薬、グリコペプチド系薬、カルバペネム系薬およびフルオロキノロン系薬の使用が全般的に減少した。全使用の減少は、グループ C および D のより小規模な地域病院および遠隔地の公立急性期病院でも認められたが、グリコペプチド系薬およびフルオロキノロン系薬の使用に増加が認められた。第三世代セファロスポリン系薬の使用については、すべての病院グループにおいて変化がなかった。全使用に占める割合の指標として用いた狭域スペクトルペニシリンの割合は、全病院において低く、介入後期間において主要な紹介病院のみでわずかな改善が認められた。

結論

これらの結果は、抗菌薬適正使用に対する法的品質基準のマクロレベルの有効性に関する現在の知識に加わるものであり、今後のプログラムにおいて標的とすべきギャップを明らかにしている。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント

抗菌薬適正使用は世界の関心事であり、オーストラリアにおいても 2013 年から抗菌薬適正使用支援(AMS)が始まり、2018 年抗菌薬適正使用のガイダンスが改定されている。2019 年に実施された調査では抗菌薬処方の 23%が不適切であることがわかっている。AMS の評価は、病院の規模や性質に応じて評価されることが必要であり、同時に具体的な戦略や介入の内容や結果に関する公表が待たれる。日本の AMR に関するデータ収集については JANIS や J-SIPHE により国家的サーベイとして本格的に実施されつつあり、すべての施設の参加とさらなるデータの蓄積が期待される。

訳注)ピアグループ分類システム(Peer group classification)は、オーストラリア保健福祉研究所(AIHW)が決めており、公立と私立の区別、病院の規模や提供する医療サービスの種類と性質による分類されている。公立病院は 6 種類に分類されており、①Principal Referral hospitals:主要紹介病院(日本の特定機能病院のようなもので幅広い領域の医療サービスを提供し、高度に専門化されたサービス部門を持つ大規模施設で、ICU、心臓外科、脳神経外科、感染症科、熱傷科、骨髄移植と臓器移植部門、24 時間の救急部門をもつ。)、②Public Acute Group A hospitals:公立急性期グループ A 病院(幅広く急性期医療を行う大規模病院で大都市に位置し、ICU、24 時間救急、冠動脈治療や悪性腫瘍部門を持つ病院、主要紹介病院よりは規模は小さい。)、③Public Acute Group B hospitals:公立急性期グループ B 病院(①や②の病院よりも規模は小さく診療範囲も狭いが、24 時間救急がある。待機的手術や小児科、産科、精神科、腫瘍科などの専門医による診療もおこなう。)、④Public Acute Group C hospitals:公立急性期グループ C 病院(上記①②③のような診療範囲はなく、一般外科、産科、救急の診療をおこなう。)、⑤Public Acute Group D hospitals:公立急性期グループ D 病院(地方または遠隔地にあり、他の公立病院よりも限られた診療を実施する。)、⑥Specialist Women’s hospitals:女性専門病院(女性や子どもの治療をおこなう。)(https://www.sahealth.sa.gov.au/wps/wcm/connect/public+content/sa+health+internet/resources/nausp+peer+group+fact+sheet)である。

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