新生児集中治療室での多クラスター・多表現型のセラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)アウトブレイクにおけるアドホック分子タイピングの感染制御策への影響★★

2024.08.18

Implications of ad-hoc molecular typing for infection control measures in a multi-cluster, multi-phenotypic Serratia marcescens outbreak in a neonatal intensive care unit

M.M.A. Toorop*, I.V. Hoogendijk, H.C.M. Dogterom-Ballering, S.A. Boers, M.E.M. Kraakman, J. van Prehn, E. Wessels, V. Bekker, K.E. Veldkamp
*Leiden University Medical Center, The Netherlands

Journal of Hospital Infection (2024) 150, 26-33


背景

セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)は、新生児集中治療室(NICU)でアウトブレイクを引き起こすことが知られている。従来は、疫学的データ、抗菌薬耐性パターンおよび疫学的タイピングが、感染予防法の指針として用いられている。コアゲノム複数部位塩基配列タイピング(cgMLST)などの全ゲノムシークエンシング(WGS)応用法をアウトブレイク時に用いることで、より多くの情報が得られる可能性がある。

目的

NICU での S. marcescens アウトブレイク時に、cgMLST を用いて細菌の感染源および伝播に関する詳細な情報を入手し、より効率的な制御策を実現する。

方法

Leiden University Medical Center(LUMC)において、S. marcescens が培養された 2023年 9月から 2024 年 1 月のアウトブレイク中に NICU に入院した新生児を対象とした。環境検体を採取して共通する感染源を探索し、抗菌薬感受性試験を実施し、抗菌薬耐性遺伝子を解析した。

結果

陽性患者 20 例中 17 例から得た S. marcescens 株が分子タイピングに利用可能であった。cgMLST スキームにより、4 つの異なるクラスターで構成される 5 種類の複合型が明らかになった。複数のクラスターが存在したことから、未同定の持続的な環境感染源がアウトブレイクの原因である可能性は低くなり、感染予防策の速やかな縮小につながった。同じ複合型および患者内で、分離株のアミノグリコシド耐性パターンに差が認められた。

結論

NICU での S. marcescens アウトブレイク時に、アドホック cgMLST の使用により、合理的な意思決定のためのデータが適時に得られた。抗菌薬感受性パターンのみでは、このような S. marcescens アウトブレイク時のクローン性伝播の調査には適さないことがわかった。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント

これまでグラム陰性菌によるアウトブレイクでは、感受性パターンやパルスフィールド電気泳動法(PFGE)、MLST(複数遺伝子配列タイピング)などがあったが、さらなる解析能力(解像度)を上げる目的で次世代シーケンサーを利用した MLST が実施されている。これは、細菌が共通にもっている中核的な遺伝子(コアゲノム:1,500 ~ 2,500 程度の遺伝子)を対象に解析するもので、cg-MLST(コアゲノムMLST)と呼ばれる。非常に高い分解能をもっており、本論文のように一見ひとつのアウトブレイクに見えていたものが複数のアウトブレイクであったことが判明するなど、解析能力は高く、今後分子疫学の手法の中心になるものと思われる。

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