COVID-19 患者における SARS-CoV-2 RNA の拡散および吐き出されるバイオエアロゾル粒子に対する生理食塩水によるネブライザーの効果★★

2024.03.31

Effects of saline nebulization on SARS-CoV-2 RNA spreading and exhaled bio-aerosol particles in COVID-19 patients

F. Buttini*, L. Gori, F. Morecchiato, A. Sorano, A. Antonelli, G.M. Rossolini, A. Bartoloni, J. Mencarini, R. Bettini, F. Lavorini
*University of Parma, Italy

Journal of Hospital Infection (2024) 145, 77-82




背景

ネブライザー療法は、閉塞性気道疾患の治療の柱であるが、COVID-19 患者では、噴霧中に SARS-CoV-2 が伝播するリスクがある可能性についての懸念が高まっている。

目的

COVID-19 患者 11 例(5 例が女性、平均年齢 62.45 ± 9.31 歳)における SARS-CoV-2 RNA の拡散に対する 0.9%の生理食塩水(生食)によるネブライザーの効果を調べること。また、11 例の患者のうち 6 例で、生食によるネブライザー処置が、吐き出されるバイオエアロゾル粒子の数を変化させるかどうかを確認すること。

方法

0.45 μm PTFE フィルターを装着した吸引ポンプを患者のベッドの周りに置き、それを使って空気検体を採取した。吐き出された粒子を、光学粒子計数器を使って定量した。

結果

ベースライン(すなわち、ネブライザー処置前)で、SARS-CoV-2 の検出される頻度は、患者に近いポンプの方が、遠く離れていたポンプより高かった。生食ネブライザー処置後、患者に近いポンプでの SARS-CoV-2 の検出は、ベースラインでの観察と同程度であった。患者から遠く離れていたポンプでは、生食ネブライザー処置が、SARS-CoV-2 RNA の検出を、ベースラインと比べてわずかに増加させたが、この増加は、有意ではなかった。全体として、生食ネブライザー処置後、SARS-CoV-2 RNA の検出に有意な変化は観察されなかった。ベースラインで、呼気中への粒子の排出は、患者によって異なり、2 例の患者からの粒子の排出は、残りの患者より多かった。生食ネブライザー処置は、ベースラインで排出の多かったこの2 例の患者で、吐き出される粒子の顕著な減少を引き起こしたが、残りの患者では、変化が観察されなかった。生食ネブライザー処置は、SARS-CoV-2 RNA の拡散を有意には変化させなかった。

結論

生食ネブライザー処置は、SARS-CoV-2 RNA の拡散を有意には増加させない。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント

呼吸器疾患患者におけるネブライザー処置は、当初COVID-19 感染拡大の原因となることが懸念され、COVID-19 陽性患者におけるネブライザーの使用を控えることが推奨されていた。しかしながら本論文ではその懸念は証明されなかった。これまでのシミュレーションおよび臨床研究を含む論文において決定的な結論が得られていないのが現状である。実際の現場においては、PPE の着用状況や病室内の換気や気流方向、室内の温湿度によりネブライザーにより生成されたエアロゾルの状況は大きく変化し、さらに患者の状態(咳や通常の呼吸)や排泄ウイルス量にも左右されるため、その必要性と十分な感染対策を施したうえでネブライザー療法を実施することが必要である。

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