全ゲノムシークエンシング(WGS)解析による分子疫学と大学病院におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus)血流感染症を引き起こす隠れた伝播★
Whole-genome sequencing analysis of molecular epidemiology and silent transmissions causing meticillin-resistant Staphylococcus aureus bloodstream infections in a university hospital T. Sato*, T. Yamaguchi, K. Aoki, C. Kajiwara, S. Kimura, T. Maeda, S. Yoshizawa, M. Sasaki, H. Murakami, J. Hisatsune, M. Sugai, Y. Ishii, K. Tateda, Y. Urita *Toho University Graduate School of Medicine, Japan Journal of Hospital Infection (2023) 139, 141-149
背景
新規ゲノム型クローン、例えば市中関連メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)や家畜関連 MRSA の登場、およびそれらの病院内への侵入は、世界的に大きな懸念となっている。しかし、日本における MRSA の検出率についてはほとんど情報が得られていない。全ゲノムシークエンシング(WGS)は、様々な病原体を分析するためにこれまで世界中で行われている。したがって、日本で利用できる MRSA 臨床分離株のゲノムデータベースを確立することが重要である。
目的
日本の大学病院 1 施設の血流感染症患者で分離されたMRSA 株について、WGS および一塩基多型(SNP)解析を用いて分子疫学解析を実施した。さらに、患者の臨床特性のレビューによって、他の方法では見逃される可能性のある隠れた院内伝播を検出するツールとしての SNP 解析の有効性について、多様な環境および様々な検出時点において評価した。
方法
PCR ベースのブドウ球菌カセット染色体 mec(SCCmec)タイピングを、2014 年から 2018 年の間に得られた分離株 135 株を用いて実施し、WGS を 2015 年から 2017 年の間に得られた分離株 88 株を用いて実施した。
結果
2014 年に多かった SCCmec II型株は 2018 年には稀になっていたが、SCCmec type IV型株の検出率は同期間に対象集団の 18.75%から 83.87%に上昇しており、優勢なクローンとなっていた。クローン複合体(CC)5 CC8 および CC1は 2015 年から 2017 年の間に検出され、CC1 が優勢であった。88 症例において、SNP 解析により 20 例で院内伝播が明らかにされ、これには相同性の高い株が関与していた。
結論
全ゲノムシークエンシング解析によるルーチンの MRSA のモニタリングは、分子疫学に関する知見を得るためだけでなく、隠れた院内伝播を検出するためにも効果的である。
監訳者コメント:
東邦大学からの報告。血液培養から検出された MRSA のクローンは 5 年間で大きく変化しており、SNP 解析により院内伝播の存在を明らかにしている。単一の医療機関からの報告で一般化はできないが、WGS 解析による MRSA のモニタリングが分子疫学の特徴付けと病院における院内感染経路の推定に有用であることが示唆される。
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