香港の教育病院の救急部における SARS-CoV-2 に対する縦断的環境サーベイランス調査★

2023.08.13

A longitudinal environmental surveillance study for SARS-CoV-2 from the emergency department of a teaching hospital in Hong Kong

L. Yung*, L.Y. Leung, K.H. Lee, S. Morrell, M.W. Fong, N.H.Y. Fung, K.L. Cheng, P. Kaewpreedee, Y. Li, B.J. Cowling, E.H.Y. Lau, D.S.C. Hui, C.A. Graham, H.-L. Yen
*The University of Hong Kong, China

Journal of Hospital Infection (2023) 138, 34-41


背景

病院環境における SARS-CoV-2 曝露のリスクに関連する因子を理解することは、予防のための感染制御策を改善する一助になると考えられる。

目的

医療従事者における SARS-CoV-2 曝露のリスクについてモニタリングすること、また SARS-CoV-2 検出に関連するリスク因子を同定すること。

方法

香港の教育病院 1 施設の救急部において、2020 年から 2022 年の 14 か月間にわたり、表面および空気のサンプルを経時的に採取した。SARS-CoV- 2 ウイルス RNA を、リアルタイム逆転写 PCR により検出した。SARS-CoV-2 検出に関連する環境因子についてロジスティック回帰により解析した。SARS-CoV-2 血清陽性率をモニタリングするために、2021 年 1 月から 4 月に血清疫学調査を実施した。質問票を用いて、研究参加者から業務の内容および個人防護具(PPE)の使用に関する情報を収集した。

結果

SARS-CoV-2 RNA の検出率は、表面サンプル(0.7%、N = 2,562)および空気サンプル(1.6%、N = 128)において低かった。密集が主たるリスク因子として同定され、週当たり救急部受診(OR = 1.002、P = 0.04)、救急部受診のピーク時間帯後のサンプル採取(OR = 5.216、P = 0.03)が、表面からの SARS-CoV-2 ウイルス RNA の検出と関連した。曝露リスクが低いことは、2021 年 4 月までに研究参加者 281 例において血清陽性率がゼロであったことから裏付けられた。

結論

密集は、受診の増加に伴い救急部に SARS-CoV-2 を取り込む可能性がある。救急部における SARS-CoV-2 汚染率の低さには、複数の因子が関与している可能性がある。そうした因子には、救急部受診者のスクリーニングを行うという病院の感染制御策、医療従事者における高い PPE 遵守率、ダイナミック・ゼロコロナ政策が採用されていた香港において市中伝播を抑えるために実施された様々な公衆衛生および社会的施策などが含まれる。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント


本論文は中国香港からのもので、コロナゼロ政策中の第 4 波で、最大 1 日4,500 例の陽性者がでている状況下で実施されたが、第 5 波では救急が逼迫しデータを取ることが困難となり、ようやく後半でサーベイランス可能となった。結果的には救急室での多数の受診患者の増加が環境汚染のリスク因子となることが判明したが、適切な防護具の使用で医療従事者の感染が防げることが COVID-19 の中和抗体の検索により示されている。

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