抗菌薬適正使用支援行動における看護師の関与の影響:理論的領域フレームワークを用いた多国間調査★
Influences on nurses’ engagement in antimicrobial stewardship behaviours: a multi-country survey using the Theoretical Domains Framework A.M. Chater*, H. Family, L.M. Abraao, E. Burnett, E. Castro-Sanchez, B. Du Toit, R. Gallagher, F. Gotterson, E. Manias, J. McEwen, R. Moralez de Figueiredo, M. Nathan, V. Ness, R. Olans, M.C. Padoveze, M. Courtenay *University College London, UK Journal of Hospital Infection (2022) 129, 171-180
背景
抗菌薬耐性(AMR)は不適切な抗菌薬使用により著しく影響を受け、人の健康にとって最大の脅威の一つである。抗菌薬適正使用支援は、責任ある抗菌薬使用を推進する活動のプログラムであり、AMR の制御に欠くことができない。看護師にはこのような状況で果たす重要な役割がある。
目的
看護師の抗菌薬適正使用支援行動の決定因子および過去のトレーニングの影響について検討すること。
方法
多国間横断調査の混合法デザインを用いた。参加者は 10 国籍の 262 名の看護師(女性 223 名、平均年齢 44.45[標準偏差〈SD〉10.77]歳)で、Twitter と共に 5 か国の専門家ネットワークを通じて個人の調査リンクが送られた。9 項目の抗菌薬適正使用支援行動および 14 領域の行動決定因子を、理論的領域フレームワーク(TDF)を用いて定量的に評価し、能力、機会、動機づけ-行動(COM-B)モデルにマッピングした。抗菌薬適正使用支援のトレーニングを受けた看護師と受けていない看護師の違いを分析により特定した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が抗菌薬適正使用支援行動に及ぼした影響を、フリーテキストデータを用いて定性的に調査した。
結果
看護師は 9 項目の抗菌薬適正使用支援行動を実施し、抗菌薬適正使用支援のトレーニングを受けた看護師は(平均 53.15[SD 7.40])、受けていない看護師(平均 48.30[SD 10.75])と比較して、全行動の総スコアが有意に高かった(t[238]-4.14、P < 0.001)。TDF のすべての領域で、抗菌薬適正使用支援のトレーニングを受けた看護師のほうが、スコアが有意に高かった。TDF は行動のばらつきの 27%を説明でき、「スキル」と「行動調整」(例えば、自己監視能力および計画能力)が、抗菌薬適正使用支援行動の最大の予測因子であることが示された。この両領域とも、COM-B モデルの「能力」の構成要素であり、教育とトレーニングの介入策により高めることができる。以前のトレーニングに関係なく、COVID-19 のパンデミック以降、抗菌薬適正使用支援行動の増加が報告された。抗菌薬適正使用支援に関連した主要な 6 つテーマは以下のとおりである(1)感染予防制御(2)抗菌薬と抗菌薬耐性(3)感染症診断と抗菌薬使用(4)抗菌薬処方業務(5)人を中心としたケア(6)多職種連携業務。
結論
看護師のトレーニングは、抗菌薬適正使用支援行動とその決定因子において有意であり有益な効果をもたらした。抗菌薬適正使用支援のトレーニングを受けた看護師は、受けていない看護師と比較して、TDF の行動決定因子すべてでスコアが高く、結果的に抗菌薬適正使用支援行動を実践する能力、機会、動機づけがより高くなった。これらの因子を高めるために、看護師に抗菌薬適正使用支援の教育およびトレーニングを提供すべきである。今後の研究では、抗菌薬適正使用支援行動を最適化するために、スキルと行動調整の進展に重点を置いた最適レベルのトレーニングを考慮すべきである。
監訳者コメント:
5 か国(英国、ブラジル、米国、南アフリカ、スペイン)から 262 名の看護師が参加し、看護師の抗菌薬適正使用支援行動の決定因子および過去のトレーニングの影響について検討した論文である。理論的領域フレームワーク(TDF)を用いて定量的に評価した結果、抗菌薬適正使用支援のトレーニングの必要性が明らかになった。研修の前後比較にも使える有用な手法であると思われた。
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