接触予防策の中止および基本的衛生策の実施がバンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)の院内伝播に及ぼす影響★★
Impact of discontinuing contact precautions and enforcement of basic hygiene measures on nosocomial vancomycin-resistant Enterococcus faecium transmission V.M. Eichel*, S. Boutin, U. Frank, M.A. Weigand, A. Heininger, N.T. Mutters, M.W. Büchler, K. Heeg, D. Nurjadi *Heidelberg University Hospital, Germany Journal of Hospital Infection (2022) 121, 120-127
目的
バンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム(vancomycin-resistant Enterococcus faecium;VREfm)は、公衆衛生上重大な懸念となる病原体として注目されるようになった。決定的なエビデンスは得られていないが、接触予防策はバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の院内伝播を抑えるための感染予防・制御戦略における決定的に重要な要素とされてきた。本研究では、接触予防策を中止する一方で、基本的衛生策(手指衛生、環境清掃、ならびに集中治療室(ICU)における VRE 保菌患者を対象とした敗血症予防の清拭など)を実施することが、菌血症を引き起こす VRE の院内伝播の予防に及ぼす影響について検討した。
方法
接触予防策は 2018 年 1 月に中止した。2016 年から 2019 年に 3 次病院 1 施設の ICU 8 室において、VREfm 菌血症および/または保菌を有する入院患者 61 例から得られたVREfm 分離株計 96 株について、全ゲノムシークエンシングを実施して特性解析を行った。VRE 伝播について、患者移動データを用い、また信頼性をもって院内獲得を同定するために実施されていた入院時スクリーニングの結果を利用して検討した。
結果
接触予防策の中止によりVREfm の伝播イベントは増加しなかった(2016 年 8 件に対して 2019 年 1 件)。内因性VREfm の検出率は両年で同様であった(38% 対 31%)一方、VREfm 菌血症前に保菌していなかった患者数は 2019 年には 16 例(29 例中 16 例、55%)で、2016 年より有意に多かった(32 例中 8 例、25%)。VREfm 菌血症の平均発生密度は両年で同様であった(2016 年および 2019 年で 1,000患者日当たり 0.26 および 0.31)。
結論
接触予防策を中止して基本的衛生策を実施したことにより、VREfm 伝播による院内血流感染症は、感染症の発生率が高い ICU において増加しなかった。
監訳者コメント:
本研究の結論だけ読んで、VRE に対して接触予防策を中止しても VRE による院内血流感染症は増加しなかったことから、VRE の接触予防策は不要であると読み取ってはいけない。接触予防策も中止前はすべての患者を個室隔離していたが、中止後も下痢、失禁、ストマ患者などの伝播リスクの高い患者は隔離対象となっており、新たに敗血症予防の清拭を導入し、環境清掃の頻度も増やしている。こうした対策を追加することにより個室隔離をせずに VRE の伝播を防いでいることに注意する。日本では VRE が増えてきているもののまだ少ない状況で、接触予防策としての個室隔離は原則的に行うべきである。
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