メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus)の消化管保菌:認識されていない病院感染制御への負担
Gastrointestinal colonization of meticillin-resistant Staphylococcus aureus: an unrecognized burden upon hospital infection control S.-C. Wong*, J.H.-K. Chen, S.Y.-C. So, P.-L. Ho, K.-Y. Yuen, V.C.-C. Cheng *Queen Mary Hospital, Hong Kong Special Administrative Region, China Journal of Hospital Infection (2022) 121, 65-74
背景
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)は、多くの医療環境で流行している。
目的
新たに MRSA の消化管保菌の診断を受けた患者の発生率、リスク因子、転帰およびゲノム関連性を解析すること。
方法
香港の病院ネットワークにおける疫学および全ゲノムシークエンシング(WGS)による遺伝子解析。
結果
2015 年 10 月 1 日から 2018 年 12 月 31 日の間に、患者 34,667 例中計 919 例(2.7%)が入院時スクリーニングで新たに MRSA の消化管保菌の診断を受けた。四半期あたりの発生率は、1,000 患者日あたり 0.67 ± 0.32 であった。試験期間中に、MRSA の消化管保菌患者を含めて全体の MRSA の負担は 59.2%増加し、4,727 MRSA 患者日増加した。過去 6 か月間に入院歴があり高齢者住居型介護施設から紹介された患者、ならびに前の 6 か月間のフルオロキノロン、セファロスポリン、プロトンポンプ阻害薬の使用は、症例対照解析の多変量解析によって、独立したリスク因子であることが確認された。症例の生存期間中央値は、対照群よりも有意に短かった(860 日 vs 1,507 日、P < 0.001)。919 例の患者中 127 例(13.8%)は、中央値 112 日の間に症候性の MRSA 感染症を発症した。WGS の対象の対の MRSA の糞便培養株および血液培養株を有する 19 例の患者のうち、MRSA 分離株 16 対(84.2%)にクローン性が認められた。MRSA ST45 は MRSA 分離株の 44.7%(17/38)を占めた。
結論
MRSA の消化管保菌は有害臨床転帰に関与し、認識されていない負担を病院感染制御へ課す可能性がある。
監訳者コメント:
MRSA のスクリーニング検査といえば鼻腔だが、便を用いたスクリーニングの結果と評価を行った論文。MRSA の便中保菌者は検出後の生存期間が短いことやその後の MRSA 感染症発症率が高いことなどが示された。どの検体を用いて保菌検査を行うのかという議論以上に、MRSA 保菌患者の予後の悪さが改めて浮き彫りにされたように感じるが、研究が行われた病院の特性もあり、一般化はできないだろう。
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