多剤耐性アシネトバクター・バウマニー(Acinetobacter baumannii)の空中拡散:COVID-19 パンデミック中の院内伝播の示唆★
Air dispersal of multidrug-resistant Acinetobacter baumannii: implications for nosocomial transmission during the COVID-19 pandemic S.-C. Wong*, G.K.-M. Lam, J.H.-K. Chen, X. Li, F.T.-F. Ip, L.L.-H. Yuen, V.W.-M. Chan, C.H.-Y. AuYeung, S.Y.-C. So, P.-L. Ho, K.-Y. Yuen, V.C.-C. Cheng *Hong Kong West Cluster, China Journal of Hospital Infection (2021) 116, 78-86
目的
天井の高さが低く、開放型の病室からなる神経内科病棟において、空気中の多剤耐性アシネトバクター・バウマニー(multidrug-resistant Acinetobacter baumannii;MRAB)の院内伝播について述べるため、空気、共用物品、手の届かない高所の表面および患者から採取される MRAB を、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中に、全ゲノムシークエンシングによって疫学的および遺伝子学的に分析した。本研究はアウトブレイク状況における MRAB の空気分離株、環境分離株および臨床分離株の遺伝的関連性を理解するための最初の研究である。
結果
COVID-19 パンデミック中に、のべ 363 日 MRAB 保菌が持続しているケア依存度の高い患者 11 例のうち、10 例(90.9%)が皮膚に保菌しており、9 例(81.8%)が消化管に保菌していた。160 件の環境および空気サンプルのうち、31 件(19.4%)が MRAB 陽性であった。共用物品が MRAB で汚染されていた割合は、コホートでの患者ケアのほうが非コホートでの患者ケアよりも有意に低かった(0/10、0%対 12/18、66.7%、P < 0.001)。25 分間のエアサンプリングにより、MRAB の空中拡散はコホート化された病室でのおむつ交換中に常に検出されたが、おむつ交換前には検出されなかった(4/4、100%対 0/4、0%、P = 0.029)。落下菌測定法によっておむつ交換中の 2 件のサンプルにおける MRAB が明らかになった。排気口の MRAB 汚染の割合は、コホート病室が 6 例の MRAB 患者で占められていた場合のほうが、6 例未満の患者が病室でケアを受けていた場合よりも有意に高かった(5/9、55.6%対 0/18、0%、P = 0.002)。手の届かない高所表面が MRAB で汚染されていた割合も、コホート病室に 3 例以上の MRAB 患者がいた場合に有意に高かった(8/31、25.8%対0/24、0%、P = 0.016)。全ゲノムシークエンシングによって、MRAB の空中拡散を示唆する空気分離株、環境分離株、患者分離株のクローン性が明らかになった。
結論
我々の知見は、個室が利用できない場合、パーティションで囲いドアを閉めた小部屋に患者をコホーティングすることが望ましい、という見解を裏付けるものである。
監訳者コメント:
COVID-19 の入院患者の収容により個室が使えない場合に、MRAB のような多剤耐性菌の保菌患者をどのように感染管理をするかは大きな課題である。患者周囲の環境はもちろん、空気中や手の届かない高所からも検出され、分子疫学的な関連性が確認されている。さらに、開放型の病室区画は空気の流れは患者から廊下側に流れるため、同様のことがCOVID-19 におけるエアロゾル感染として報告されている。これらのことから、患者収容の病室は扉がしまり、その区画内で換気(給気と排気)が独立して実施される病室構造が必要である。
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