全病院レベルでの発生率研究から報告された医療関連感染症の疫学:感染予防・制御計画についての考察
Epidemiology of healthcare-associated infection reported from a hospital-wide incidence study: considerations for infection prevention and control planning S. Stewart*, C. Robertson, J. Pan, S. Kennedy, S. Dancer, L. Haahr, S. Manoukian, H. Mason, K. Kavanagh, B. Cook, J. Reilly *Glasgow Caledonian University, UK Journal of Hospital Infection (2021) 114, 10-22
背景
医療関連感染症(HAI)の報告における疾患頻度の指標として、点有病率調査がもっとも広く使用されている。時間と費用面での制約により、発生率研究が実施されるのはまれであるが、この研究によって、どの患者が、いつ、どこで HAI に感染するかが示され、感染予防・制御策の計画およびデザインについて情報が得られる。
目的
スコットランドの 1 総合病院および 1 教育病院における HAI の疫学を明らかにすること。
方法
Evaluation of Cost of Nosocomial Infection(ECONI)研究の一環として収集したデータを用いて、2018 年 4 月から 1 年間にわたり前向き観察的発生率研究を実施した。全入退院情報を提供する国内管理データへのレコードリンケージにより、新たな確固たるアプローチに着手した。HAI の国際定義に合致する症例を登録した。
結果
2 つの病院全体での HAI 発生率は、100,000 急性期入院患者延べ在院日数あたりHAI症例250 例であった。もっとも頻度が高いのは尿路感染症(100,000急性期入院患者延べ在院日数あたり 51.2)、血流感染症(44.7)、下気道感染症(42.2)であった。もっとも頻繁に報告された細菌は、大腸菌(Escherichia coli)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、ノロウイルスであった。高齢者、救急患者において HAI 発生率がより高かった。夏季に HAI 発生率の増加が認められ(肺炎、呼吸器感染症、外科的感染症、消化管感染症)、冬季にはノロウイルスによる消化管感染症が増加した(P < 0.0001)。発生率がもっとも高い専門領域は、集中治療、腎臓内科、心臓胸部外科手術であった。HAI は入院後中央値 9 日(四分位範囲 4 ~ 19)の時点で発生した。発生率データを外挿すると、国民保健サービス(NHS)スコットランドにおける年間の HAI 推定数は 7,437 例(95%信頼区間 7,021 ~ 7,849)であった。
結論
本研究はHAI 発生率の全体像を提供した独自のものであり、国内レベルでの HAI の負担を初めて確認した。異なる臨床環境や異なる時点の発生率を認識することにより、もっとも利益を得る患者を感染予防・制御策の対象とすることができるであろう。
監訳者コメント:
全症例感染サーベイランスは労力を要し、効率が悪い。代表的な医療施設ではこうしたサーベイランスを一部実施して、実態把握することも重要である。日本ではJANISサーベイランスで国立病院機構の病院対象でこうした取り組みが行われている。
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