複数種の多剤耐性微生物の環境拡散におけるリスク因子:前向きコホート研究★
Risk factors for the environmental spread of different multidrug-resistant organisms: a prospective cohort study
R. Saliba*, T. Ghelfenstein-Ferreira, A. Lomont, B. Pilmis, E. Carbonnelle, D. Seytre, E. Nasser-Ayoub, J.-R. Zahar, D. Karam-Sarkis
*Université Sorbonne Paris Nord, France
Journal of Hospital Infection (2021) 111, 155-161
背景
病院の環境表面における汚染が、多剤耐性微生物(MDRO)の伝播に重要な役割を果たしていることを示す科学的なエビデンスがかなりある。これまでに、研究によっては環境汚染に関連するリスク因子は同定されていない。
目的
複数種の MDRO について保菌者周囲の環境汚染と関連する因子について、評価し、比較し、同定すること。.
方法
本前向きコホート研究は、2018 年 5 月から 2020 年 2 月に実施した。Avicenne Hospital および Hotel Dieu de France de Beyrouth Hospital に入院しており、MDRO(基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生腸内細菌目細菌[ESBL-PE]、カルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌[CPE]、バンコマイシン耐性腸球菌[VRE])の便中保菌者であった患者計 125 例を組み入れた。各患者について便中の MDRO を定量化し、加えて環境内の 6 カ所について MDRO の定性的評価を行った。また、臨床データを収集した。
結果
MDRO には、ESBL-PE(34%)、CPE(45%)、および VRE(21%)が含まれていた。最も多くみられた MDRO の種は、大腸菌(Escherichia coli)であった。環境内の少なくとも 1 カ所で汚染が認められた患者は、22 例(18%)であった。VanA の保菌のみが、有意に高い拡散リスクと関連していた。尿道カテーテルの留置、OXA48 および大腸菌の保菌が、環境汚染に対する保護的因子であった。環境汚染には、大腸菌とその他の腸内細菌目細菌との間で、あるいは ESBL-PE とCPE との間で有意な差は認められなかった。
結論
病院における環境汚染率はVRE 保菌患者ではかなり高かったのに対し、ESBL-PE および CPE 保菌患者周囲における環境拡散率は低かった。本研究の結果を確認するために、今後より大規模な研究が必要である。
監訳者コメント:
耐性菌による環境の汚染度は、環境表面の材質や温度、乾燥か湿潤なのかにより大きく左右される、特にグラム陰性桿菌は湿潤環境を好み、乾燥にはグラム陽性菌と比較すると弱いことがわかっている。本論文での環境調査は、ベッドシーツ、テーブル、ベッド柵、枕カバー、肘掛けイス、便座という乾燥状況にある環境表面からの培養であり、VREが環境での生存が長期にわたることを考えると当然の結果とも考えられる。当然ながら環境汚染を経由した二次感染もVREにおいて多発しやすいことも理解できる。一方で、頻度は低いが、グラム陰性桿菌の乾燥環境での汚染も決して見過ごすことはできない。
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