中国、武漢の医療従事者における SARS-CoV-2 感染症の時間空間特性および要因分析★★

2021.04.30

Spatiotemporal characteristics and factor analysis of SARS-CoV-2 infections among healthcare workers in Wuhan, China

 

P. Wang*, H. Ren, X. Zhu, X. Fu, H. Liu, T. Hu

*Wuhan University, China

 

Journal of Hospital Infection (2021) 110, 172-177

 

 

背景

医療従事者における SARS-CoV-2 感染症の時間空間分布を研究することで、医療従事者を曝露から防御する助けとなり得る。

 

目的

中国、武漢の医療従事者における SARS-CoV-2 感染症の時間空間分布を記述すること。

 

方法

本研究には、医療従事者が受けた診断に関するオープンソース・データセットが提供された。次いで地理的検出技術を用いて、病院のレベル、種類、感染源からの距離、ならびに医療従事者の感染に関するその他の外的指標の影響を検討した。

 

結果

武漢の医療従事者における 1 日あたりの感染件数は、経時的に対数正規分布を示しており、平均は 2020 年 1 月 23 日に観察され、標準偏差は 10.8 日であった。武漢市のロックダウンなどの強力な措置を実施したことで、短期的には医療従事者の感染確率を高めた可能性が、特に武漢市の外環地域で認められた。武漢における医療従事者の感染には、空間的に明確な不均一性が認められた。医療従事者の感染件数は、市の中央部で高く、市の外部で低かった。

 

結論

医療従事者の感染は、有意な空間的自己相関および依存性を示した。要因分析から、病院のレベルおよび種類が、医療従事者の感染に対してより大きな影響を及ぼしていた。すなわち、感染発生源に近い 3 次病院および総合病院であることが、特に高い感染リスクと相関した。

 

サマリー原文(英語)はこちら

 

監訳者コメント

COVID-19 のパンデミックにより世界中の医療従事者が患者を救うために最前線で SARS-CoV-2 と闘っている。病原体の曝露リスクを考えると常に感染の危機に直面している。2003 年の SARS は中国で発生し世界に拡がった。WHO の報告によれば、世界の全感染患者の 2 割が医療従事者であった。SARS のパンデミックを通して「防護具の着用の必要性と自身と環境を汚染しないように防護具を脱ぐ手順の重要性」を学び、次に来る新興感染症に備えていたはずであった。しかしながら、COVID-1 9発生時の中国における医療従事者の感染率は 1 月には武漢市内では 20%を越えており、中国における医療従事者の感染の 9 割が武漢市のある湖北省に集中していた。中国全体でみると感染者の 4%が医療従事者であった。この武漢市で特に高い理由として、①発生当初の不適切な防護具着用状況(病態が不明で、現場の意識も低かった)、②数多くの患者が病院に殺到したために診療への負荷がかかり長時間にわたる曝露、③急激な患者の増加により防護具の供給不足、④現場の医療従事への感染予防策の教育訓練の不足、が原因と考えられた。この状況から、突然発生する未知の感染症に対して我々は未だに無防備であることがわかる。

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