英国およびアイルランド共和国の成人心臓手術における手術部位感染症に対する予防実践のばらつきに関する全国調査★
National survey of variations in practice in the prevention of surgical site infections in adult cardiac surgery, United Kingdom and Republic of Ireland
* National Cardiac Benchmarking Collaborative, Public Health England
*University of Leicester, UK
Journal of Hospital Infection (2020) 106, 812-819
背景
現時点で、心臓手術の際の手術部位感染症(SSI)の予防についての国内基準ははない。SSI 発生率には、センターによって 1% から 8% のばらつきがある。
目的
本研究の目的は、英国およびアイルランド共和国での SSI 予防のアプローチにおけるばらつきを検討し、その特徴を明らかにすることであった。
方法
心臓手術センターを対象にウェブベースの電子質問票を用いて、施設レベルと診療チームレベルの両方で SSI 予防におけるばらつきを明らかにした。Cardiothoracic Interdisciplinary Research Network、Public Health England および National Cardiac Benchmarking Collaborative と協力して、手術の実施前、実施中、および実施後におけるルーチンの実践を網羅するために調査内容の作成および実施を行った。
結果
質問票を送付したセンター 38 施設中 19 施設がデータを提供し、これには診療チーム 139 チーム の回答が含まれた。回答したセンターのデータに欠落はなかった。その結果から、SSI 予防の 40 以上にわたる側面についてかなりのばらつきがあることが示された。これらには、SSI サーベイランス、外部機関に対する SSI 発生率の報告、SSI リスク予測ツールの利用、ならびに胸骨補助デバイスやゲンタマイシン浸漬スポンジなどの介入法の使用などにおけるばらつきがあった。
結論
英国およびアイルランド共和国の全土にわたる心臓手術センターにおいて測定された SSI 予防のばらつきは、臨床における最良の診療についての不確実さを示しており、また質の改善についての改善の余地、ならびに今後の研究において取り組むべき知識のギャップを明らかにしている。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
心臓外科手術後の SSI 発生により、2 週間の入院期間の延長、再入院率が 6 倍に増え、余分な外来経過観察と再手術を要することとなり、年間 1,500 万ポンドの医療費が余分に必要であることがわかっている。英国およびアイルランドにおける心臓外科手術の SSI 予防方法に関しては国の標準的なガイドラインがなく、施設毎のばらつきを知るための調査が実施された。術前患者の HbA1c の測定および糖尿病患者の周術期の血糖コントロールやインスリン・スライディング・スケールの使用、術前シャワー(前日か当日か)や剃毛のタイミング(前日、当日病棟または手術室か)、術前シャワーにクロルヘキシジングルコン酸塩の使用、周術期の予防投与はフルクロキサシリン、ゲンタマイシン、セフロキシムなどが使用され、投与期間も 12 時間から 48 時間など、SSI 予防対策の実施状況は少しづつ施設毎に異なっていた。今後の国の標準的なガイドライン作成における参考となる。
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