隔離予防策の対象となった保菌者における多剤耐性菌に関連する「烙印」は限定的:探索的な定量的質問票研究★
Limited multi-drug resistant organism related stigma in carriers exposed to isolation precautions: an exploratory quantitative questionnaire study
R. Wijnakker*, M.M.C. Lambregts, B. Rump, K.E. Veldkamp, R. Reis, L.G. Visser, M.G.J. de Boer
*Leiden University Medical Center, the Netherlands
Journal of Hospital Infection (2020) 106, 126-133
背景
隔離予防策は、多剤耐性菌(MDRO)の伝播リスクを制御するために適用される。隔離予防策は、不安やうつ病などの有害作用と関連付けられている。本研究では、MDRO の保菌者における烙印について、またそうした烙印と、意識されたメンタルヘルスおよび経験された QOL との関連について定量化することを目的とした。
方法
入院中に 3 日以上の隔離予防策の対象となった MDRO 保菌者を対象に、定量的質問票研究を実施した。Consumer Quality Index 質問票(CQI)から抽出した項目を用いて、ケアに関する意識を評価した。烙印の評価スコアは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)に関して最近修正された Berger Stigma Scale を用いて算出した。メンタルヘルスは、RAND Mental Health Inventory を用いて測定した。Spearman の順位相関検定を用いて、烙印のスコアと RAND メンタルヘルススコアとの関連を評価した。
結果
組み入れた保菌者 41 例中 31 例(75.6%)が両方の質問票に回答した。経験された QOL は、CQI スコアによれば「良い(good)」であった。24%が、MDRO 保菌者であることについて医療従事者から適切な説明を受けていないと報告した。MDRO に関連する烙印は、31 例中 1 例(3.2%)で報告された。メンタルヘルスの不良は、31 例中 3 例(9.7%)で自己報告された。烙印のスコアと RAND メンタルヘルススコアとの間に相関は認められなかった(Spearman の相関係数 0.347)。
結論
本研究において、3 日以上の隔離予防策の対象となった MDRO 保菌者において烙印は報告されなかった。この結果は、MRSA に関連する烙印を検討した最近の 1 研究とは対照的であり、このことは、MRSA の場合は接触および空気感染に関する隔離プロトコールであるのに対して、他のほとんどの MDRO の場合は接触隔離のみであることから説明される可能性がある。また、まだ知られていない理由により、心理学的な影響の大きさが異なっている可能性がある。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
2014 年に WHO は「薬剤耐性」を世界的な問題として緊急対応するよう宣言した。耐性菌が極めて少ないオランダからの報告であり、MRSA を「saerch and destroy」で MRSA を1%まで激減させた国での研究である。MRSA の場合は、接触感染隔離対策に、除菌及び空気感染対策を追加するために烙印による精神的・心理的弊害が報告されている、一方、MRSA 以外の耐性菌保菌においては接触感染対策のみのため、烙印は認められなかった。MRSA の多い日本とは状況が異なること、さらに民族や文化も違うため、得られた結果をそのまま日本に当てはめることは早計かもしれない。
訳者注:本論文の英語のStigma(スティグマ)とは汚名また烙印と日本語に訳されているが、差別や偏見を生み出すもととなる。本論文では「耐生菌保菌者」という烙印をおされることをStigmaとしている。
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