アイルランドにおけるニューデリー・メタロ-β-ラクタマーゼ(NDM)-1 カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌によるアウトブレイク:蔓延しつつあるが認識されていない

2016.12.21

An Irish outbreak of New Delhi metallo-β-lactamase (NDM)-1 carbapenemase-producing Enterobacteriaceae: increasing but unrecognized prevalence


C. O’Connor*, M. Cormican, T.W. Boo, E. McGrath, B. Slevin, A. O’Gorman, M. Commane, S. Mahony, E. O’Donovan, J. Powell, R. Monahan, C. Finnegan, M.G. Kiernan, J.C. Coffey, L. Power, N.H. O’Connell, C.P. Dunne
*University of Limerick, Ireland
Journal of Hospital Infection (2016) 94, 351-357
背景
カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)は、死亡率の高い医療関連感染を引き起こす可能性がある。ニューデリー・メタロ-β-ラクタマーゼ(NDM)-1 は最近発見されたカルバペネマーゼのひとつである。
目的
アイルランドにおける NDM-1 CPE による初のアウトブレイクについて、微生物学的および疫学的特徴を含めて報告し、感染予防および制御策の効果を評価すること。
方法
本研究は、後向きの微生物学的および疫学的レビューであった。症例は CPE 培養で陽性を示した患者とした。接触者は、同室者または同病棟入院患者とした。
結果
このアウトブレイクには別個ではあるが提携した医療施設 3 施設の患者 10 例が関与した(年齢の中央値 71 歳、範囲 45 ~ 90 歳)。1 例は感染例であり(初発症例)、他の 9 例は定着例であった。2014年第 24週から第 37週までの間に、NDM-1 産生肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)9 株、NDM-1 産生大腸菌(Escherichia coli)1 株、および肺炎桿菌カルバペネマーゼ(KPC)産生エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)1 株が検出された。パルスフィールド・ゲル電気泳動法により肺炎桿菌分離株の相同性が示された。NDM-1 陽性分離株はメロペネムに耐性を示し、最小発育阻止濃度(MIC)は 12 ~ 32 μg/mLであった。すべての分離株がチゲサイクリン感性であった(MIC 1 μg/mL以下)。1 分離株はコリスチン耐性であった(MIC 4.0 μg/mL、mcr-1 遺伝子は検出されず)。2015年にさらに 4 つの NDM-1 分離株が検出された。
結論
このアウトブレイクの管理が成功したのは、伝播を防ぐため感染予防および感染制御の実践を迅速に強化したことによる。患者にはアイルランド国外への渡航歴がなかったが、数人がアイルランド国内でしばしば入院していた。これは、NDM-1 産生菌が蔓延しつつあるにもかかわらず認識されていない可能性、ならびに定着リスクの指標に渡航歴を使用することの有用性が低下している可能性に関して、懸念をもたらすものである。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
アイルランドでは渡航歴のある患者の NDM 産生菌の保菌が過去に報告されている。本報告は渡航歴のない患者の NDM 産生菌保菌または感染事例の報告で、アイルランドですでに水面下で NDM 産生菌保有者が増加しつつあることを懸念する内容である。日本では幸い現時点では渡航歴のない患者における NDM 産生菌のアウトブレイクなどの報告はないが、渡航歴を有する患者による様々な耐性菌の持ち込みはしばしば報告されており、今後国内への旅行者の増加により、耐性菌保有リスクの有無を調べるための渡航歴の聴取はより一層重要になると考えられる。

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