ペニシリンアレルギーの記録が抗菌薬の費用と入院期間に及ぼす影響:単一施設後向き観察コホート研究

2020.09.30

Impact of penicillin allergy records on antibiotic costs and length of hospital stay: a single-centre observational retrospective cohort
N. Powell*, K. Honeyford, J. Sandoe
*Royal Cornwall Hospital Trust, UK
Journal of Hospital Infection (2020) 106, 35-42


緒言
通常、ペニシリンアレルギーの記録がある患者は非ペニシリン系抗菌薬を処方され、健康上の転帰もより悪い。本研究ではペニシリンアレルギーの記録が抗菌薬治療の費用と患者の入院期間に及ぼす影響を調査した。
方法
750 床の英国の病院 1 施設において、2016 年 4 月から 2018 年 3 月の間に全身投与の抗菌薬を処方された患者が本研究に含まれた。以下のデータは患者ごとに抽出された(すなわち、年齢、性別、併存疾患、治療を受けた感染症、抗菌薬の使用量[1 日服用量]、入院期間、ペニシリンアレルギーの状態)。ペニシリンアレルギーが記録された患者と抗菌薬の総費用、総入院期間との間の関連性を明らかにするために、多変量対数線形モデリングを使用した。上記のモデルを用いて、ペニシリンアレルギーの記録を「削除する」患者の総費用と総入院日数の見込まれる削減を推定した。
結果
ペニシリンアレルギーの記録は入院患者の 14.3%に存在し、非ペニシリン系抗菌薬の処方の増加に関連していた。ペニシリンアレルギーの記録がない患者と比較すると抗菌薬の費用は 28.4%増え、入院期間は 5.5%長かった。ペニシリンアレルギーの記録がある患者の余分な抗菌薬の支出は 10,637 ポンド(抗菌薬の年間支出の 2.61%)、余分な入院日数は 3,522 日(年間入院日数の 3.87%)を占めた。自己申告のペニシリンアレルギーの記録がある患者のうち 50%の記録を削除することで抗菌薬の費用を推定 5,501 ポンド節減でき、余分な入院日数の短縮により 503,932 ポンド削減できる可能性がある。
結論
患者の自己申告のアレルギー記録を削除することにより、抗菌薬の費用を削減できる可能性があるが、余分な入院日数の削減が費用への最大の影響をもたらす。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
本論文は、ペニシリンアレルギーの記載をやめる提案をしている。研究者らの予測では、「自己申告のペニシリンアレルギー」の記録を半分削除することで抗菌薬費用を 75 万円、入院関連で 7 千万円の削減になるとしている。「ペニシリンアレルギー」の定義を見直す必要はあるが、治療成績にもよい影響を与える可能性があると思われた。

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