侵襲性フザリウム症の感染源としての病室の排水口:血液内科患者を対象とした解析
Drain outlets in patient rooms as sources for invasive fusariosis: an analysis of patients with haematological disorders
Y. Hino*, Y. Muraosa, M. Oguchi, M. Yahiro, K. Yarita, A. Watanabe, E. Sakaida, K. Yokote, K. Kamei
*Chiba University, Japan
Journal of Hospital Infection (2020) 105, 518-526
背景
侵襲性フザリウム症は頻度が高く、治療用の抗真菌薬がないため致死性疾患であるため、侵襲性フザリウム症の予防は極めて重要である。しかし、フザリウム(Fusarium)感染症は、アスペルギルス(Aspergillus)やカンジダ(Candida)などの他の一般的な病原性真菌のように徹底した研究が行われていない。
目的
日本の血液内科患者における侵襲性フザリウム症の疫学について調べること、およびフザリウム症の感染経路を明らかにすること。
方法
2009 年から 2019 年の期間に、日本の血液内科疾患患者における侵襲性フザリウム症の 29 症例を後向きに解析した。侵襲性フザリウム症の感染源を明らかにするため、医療施設および介護施設の室内空気および排水口を対象とした室内環境調査を、培養に基づくメタゲノム解析を用いて実施した。最後に、エアロゾルおよび飛沫拡散試験を実施した。
結果
疫学試験から、侵襲性フザリウム症の主要な病原体は Fusarium solani species complex(FSSC)であること、また最も高頻度に認められた菌種は Fusarium petroliphilum であることが示された。ほとんどの患者が、入院中に侵襲性フザリウム症を発症する割合が高かった。Fusarium 菌を対象とした培養では、排水口サンプル 72 個中 26 個が陽性であった。空気サンプルからはFusarium 菌はほとんど検出されなかったのに対し、排水口で回収された分離株 108 株中 29 株はFusarium 菌と同定された。さらに、メタゲノム解析でも同様の結果が得られた。興味深いことに、室内の排水口から FSSC に属するFusarium 菌種が分離され、これらの分離株は侵襲性フザリウム症患者の分離株と類似していた。飛沫拡散試験では、Fusarium 菌のコロニーが 8 個から 17 個分離された。
結論
著者らの研究から、感染原因となったFusarium 属菌は、病院や介護施設の排水口に定着している可能性、また飛沫によるFusarium 菌の拡散が侵襲性フザリウム症の原因である可能性が示唆される。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
血液内科患者から分離された Fusarium 属菌の評価と、そのソースとしてシンクの排水口を提唱した研究である。排水口は様々な微生物のソースとして報告されているが、フサリウムもか、といったところである。
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