呼吸器サンプルからのカルバペネマーゼ、CTX-M、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)関連遺伝子および mecA/C の検出における ELITe MGB アッセイの正確度★
Accuracy of the ELITe MGB assays for the detection of carbapenemases, CTX-M, Staphylococcus aureus and mecA/C genes directly from respiratory samples
M. Boattini*, G. Bianco, M. Iannaccone, L. Charrier, A. Almeida, G. De Intinis, R. Cavallo, C. Costa
*University Hospital Città della Salute e della Scienza di Torino, Italy
Journal of Hospital Infection (2020) 105, 306-310
緒論
下気道細菌感染症は、呼吸不全、集中治療室入室および医療費増大につながり得る重篤な臨床状態となる場合がある。カルバペネマーゼおよび基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生腸内細菌科細菌、ならびにメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)は、特に医療関連感染症において、大きな問題となっている。本研究は、下気道細菌感染症患者に対する適切な治療および感染制御を促進するために、分子アッセイによりカルバペネマーゼ、ESBL および MRSA をコードする遺伝子を呼吸器サンプルから直接検出できるかどうかを明らかにすることを目的とした。
方法
カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)、ESBL および MRSA/SA を対象とした ELITe MGB アッセイを、下気道細菌感染症を有して入院した患者 318 例から採取した呼吸器サンプル 354 個に対して直接実施した。分子アッセイの結果を、ルーチンの培養ベースの診断ツールによる結果と比較した。
結果
CRE ELITe MGB キットの陽性的中率および陰性的中率は、それぞれ 75.9%(95%信頼区間[CI]60.3 ~ 86.7)および 100%であった。ESBL ELITe MGB キットの陽性的中率および陰性的中率は、それぞれ 80.8%(95%CI 63.6 ~ 91.0)および 99.1%(95%CI 96.6 ~ 99.8)であった。MRSA/SA ELITe MGB キットの陽性的中率および陰性的中率は、それぞれ 91.7%(95%CI 73.7 ~ 97.7)/100%および 98.3%(95%CI 89.8 ~ 99.3)/96.8%(95%CI 81.6 ~ 99.5)であった。
考察
主要な抗菌薬耐性遺伝子を呼吸器サンプルから直接検出する分子アッセイの妥当性評価の結果、培養ベースの結果と比較して、高い正確度が示された。主要なカルバペネマーゼ、ESBL、S. aureus およびメチシリン耐性をコードする遺伝子を検出する分子アッセイは興味深いツールであり、下気道細菌感染症患者に対する適切な抗菌薬療法および感染制御実践の最適化を促進する可能性がある。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
細菌性下気道感染症は、重症化すると集中治療を要し、入院期間の延長と医療費の高騰をもたらす。下気道感染症患者に対しては通常広域抗菌薬が経験的に投与されるが、適切な起炎菌同定がなければ、抗菌薬の適正使用ができず、菌交代症により耐性菌の選択をもたらすこととなる。したがって、耐性菌を迅速かつ正確に検出することは、治療上も感染対策上も重要となる。肺炎において起炎菌が同定されるのは約 30%であり、培養同定法は結果報告までに数日を要することから、早期の抗菌薬の適正使用を妨げる。すでに遺伝子検査は血液培養では一般化しているが、下気道検体での検討は不十分である。CRE、ESBL 産生菌、MRSA などを検出する個々のキットが準備されており、核酸抽出から遺伝子増幅までを全自動でできる装置(ELITe InGenius™)に、このキットを装填するだけで、わずか 3 時間で結果を報告する。本キットの使用により早期に耐性菌を検出し、その施設や地域での薬剤感受性率を同時に利用すれば、適切な抗菌薬の選択と早期の治療開始が可能となるばかりか、同時に感染対策が可能となり耐性菌拡大防止にもつながる。しかしながら、遺伝子検査の欠点は生菌と死菌の区別がつかず、また菌量が不明であり保菌と感染症との区別が難しい点が今後の解決すべき課題である。
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