病院における潜在的病原体の媒介物としての携帯電話:微生物叢の分析により隠れた汚染物質が明らかに★★

2020.02.29

Mobile phones as fomites for potential pathogens in hospitals: microbiome analysis reveals hidden contaminants


R. Simmonds*, D. Lee, E. Hayhurst
*The University of South Wales, UK
Journal of Hospital Infection (2020) 104, 207-213
背景
臨床環境で用いられているスマートフォンは潜在的に病原性細菌を保有しており、このことが感染リスクをもたらす可能性がある。これまでの複数の研究は、培養に基づく方法に依拠していた。
目的
病院スタッフのスマートフォンにおける微生物汚染の量および多様性について、培養に基づく方法と培養を用いない方法によって明らかにすること。抗菌薬耐性を有する潜在的病原体の存在率を明らかにすること。病院スタッフと対照群の携帯電話について微生物集団を比較すること。
方法
病院スタッフ 250 名および対照群の参加者 191 人のスマートフォンから、スワブ検体を採取した。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)および腸内細菌科細菌の分離株について、抗菌薬耐性プロファイルを明らかにした。スワブ検体を、スタッフが勤務する病院内区域に従って分類し、DNA を抽出した。携帯電話の微生物集団の特性を、Illumina MiSeq メタバーコーディング*パイプラインを用いて明らかにした。
結果
ほとんどすべての病院スタッフ(99.2%)のスマートフォンが、潜在的病原体によって汚染されており、細菌のコロニー形成単位(CFU)は病院スタッフの携帯電話の方が対照群より有意に高かった。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)およびバンコマイシン耐性腸内細菌科細菌(VRE)は、病院スタッフの携帯電話でのみ検出された。メタバーコーディング*により、培養に基づく方法と比べて、グラム陰性菌による汚染がはるかに多いこと、また汚染の多様性がはるかに高いことが示された。病院スタッフ群では、バチルス(Bacillus)属菌が有意に多かった。
結論
本研究から、臨床環境におけるスマートフォンの使用増加に伴う潜在的リスクを低減するための感染制御策を検討する必要性が強く示されており、また環境のスワブ採取の場合の培養に基づく方法の限界が強調されている。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
IT の発達により、患者確認から電子カルテ入力にいたるまで、医療安全の推進と相まって、多くの病院スタッフが入力端末としてスマートフォンを持ち歩く状況が発生している。また、医師は個人のスマートフォンを携行し、端末を利用して情報検索をしている実情があり、本論文の結果は予測されたことであり、驚くにはいたらない。実際、スマートフォンを毎日清拭する医療スタッフは 10%以下で、28.4%が週 1 回、62.0%は一度も拭いたことがなかった。また、医療スタッフのスマートフォンのコントロール画面表面の菌数は3 〜 5倍であった。また、1 日平均 200 回程度の画面への接触があり、常に手の汗や有機物を栄養源にして細菌が定着増殖することとなる結果、VRE や MRSA などの耐性菌のリザーバーとなる可能性がある。過去には聴診器が耐性菌のリザーバーになる可能性があるとして問題となったが、次はスマートフォンである。
*訳注)PCR 法で DNA を遺伝子増幅後、次世代シーケンサーを使用して塩基配列を決定し、さまざまな細菌の DNA の配列を解析し、対象物に存在する細菌を同定する方法

レーティング:★★

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