集中治療室における全ゲノムシークエンシングを用いた黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の追跡

2019.09.29

Tracking Staphylococcus aureus in the intensive care unit using whole-genome sequencing


S.J. Dancer*, C.E. Adams, J. Smith, B. Pichon, A. Kearns, D. Morrison
*Hairmyres Hospital, UK
Journal of Hospital Infection (2019) 103, 13-20
背景
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は、世界中で未だに重要な細菌性病原体である。本研究は、1 カ所の 10 床からなる集中治療室(ICU)において、さまざまな環境リザーバ間の黄色ブドウ球菌を追跡するために、ブドウ球菌の既知の疫学を利用した。
方法
選択した手指接触面、職員の手指、空気の系統的スクリーニングを 10 か月間に 10 回実施し、試験期間を通して患者をスクリーニングした。黄色ブドウ球菌分離株の spa タイピングおよび疫学的解析を実施し、次いで、一塩基多型のデータを得るために全ゲノムシークエンシングを実施した。
結果
患者とリザーバ間の複数の伝播経路を調査した。34 件の伝播イベントがあり、そのうち 29 件は関連性が高く(SNP の違い 25 未満)、5 件は関連している可能性があった(SNP の違い 50 未満)。20 件(59%)の伝播イベントは、保菌患者とその患者自身の身体部位間で発生(すなわち、自己感染)、4 件(12%)は患者間の交差伝播と関連、4 件(12%)は患者と手指接触部位(ベッド柵、静脈内ポンプ)間で発生、4 件(12%)は空気中の黄色ブドウ球菌と職員の手指・ベッド柵との関連、2 件(6%)は、ベッドテーブル、ベッド柵、心電図モニターとの関連であった。
結論
保菌患者によって新たな黄色ブドウ球菌が ICU に頻繁にもたらされるため、保菌患者の区域内(あるいは近く)の手指接触部位に、その病原体の占める割合が拡大する。このような黄色ブドウ球菌の短期リザーバは、その後の患者に保菌/感染リスクをもたらす。ICU 関連黄色ブドウ球菌感染症の半数以上は、患者自身の細菌叢に由来し、職員の手指や空気が前方感染に関与することはまれである。ICU のブドウ球菌感染症の制御には、患者スクリーニング、手指接触面の組織的な清掃、継続的な手指衛生の強化が最善策である。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
分子疫学的解析手法の極みである全塩基配列の比較であるが、分析手法のすべては多型性を司る特定領域の比較によるもので、データベースのマネジメントが重要である。

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