メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus)の疫学の理解および制御に対する全ゲノムシークエンス法の寄与
Contribution of whole-genome sequencing to understanding of the epidemiology and control of meticillin-resistant Staphylococcus aureus
H. Humphreys*, D.C. Coleman
*Royal College of Surgeons in Ireland Education and Research Centre, Beaumont Hospital, Ireland
Journal of Hospital Infection (2019) 102, 189-199
近年、アウトブレイク管理の一環としてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の伝播を追跡するための取り組みに、パルスフィールド・ゲル電気泳動および spa タイピングを含む、従来の DNA に基づく方法が使用されてきた。しかし、優勢クローンが存在する場合、これらの方法は識別力が不十分な可能性がある。全ゲノムシークエンス法(WGS)によって、院内伝播および地域の MRSA を含む MRSA のアウトブレイクの調査にいかに大きな変化がもたらされたかを浮き彫りにするため、またその将来性をレビューするため、文献検索を行った。WGS は、分離株のゲノム全体の DNA 配列を迅速に決定し比較できるように、分離株の識別の強化をもたらす。WGS のデータの解析に使用するソフトウェアパッケージは、以前より利用できるようになってきている。しばしば長時間継続し、従来的な分子タイピングで以前は検出されていないアウトブレイクの確認において、現在までのところ、WGS はより高感度であった。地域から病院への、病院内および病院間の、病院から地域への、伝播の変化する動態は、WGS の研究によってのみ明らかになり、かつ、広く認識されているよりもさらに複雑で入り組んでいる。また、分離株が異なる場合、WGS は交差伝播を除外することができる。現在の課題は、WGS の技術をルーチンでの使用においてより受け入れやすくすること、ならびに長期化したアウトブレイクを含む、同じアウトブレイクの一部と見なされる分離株の配列の違いの閾値に対するエビデンスに基づいた合意を得ることである。そのようなデータを適切なタイミングで用いることにより、初期段階での交差伝播事象の検出における感度を上げられ、アウトブレイクを防ぐ可能性があり、また感染制御に対して良い影響を与える可能性がある。
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監訳者コメント:
アウトブレイクした菌株の相同性の比較方法として、様々な方法が試みられてきた。WGSはその最終形といってもいいだろう。ところが一方で、「実は水平伝播しているが、WGS で見ると多少の遺伝子の変化がある」という現象も十分に想定しうる。WGS で比較したときに、どのくらいの差なら同一と見なせるのか、おそらく遺伝子配列のみならず、臨床的な背景なども定量化して加味する必要があるのではないだろうか。技術が進化する中で、それを解釈する方法がまだ追いついていない印象である。
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