手指乾燥手法に応じた病院のトイレの細菌による環境汚染:多施設共同研究★★

2018.12.25

Environmental contamination by bacteria in hospital washrooms according to hand-drying method: a
multi-centre study


E. Best*, P. Parnell, J. Couturier, F. Barbut, A. Le Bozec, L. Arnoldo, A. Madia, S. Brusaferro, M.H. Wilcox
*Microbiology, Leeds Teaching Hospitals, UK
Journal of Hospital Infection (2018) 100, 469-475
背景
手指衛生は感染予防の基本要素の 1 つであるが、手指乾燥手法が潜在的病原菌の伝播リスクに影響するかどうかを検討した研究はほとんどない。
目的
多施設共同、クロスオーバー試験を実施し、ペーパータオルまたはジェット式空気ドライヤー(ダイソン社)のいずれかによる手指乾燥を行うトイレの細菌汚染レベルを比較すること。
方法
病院 3 施設(イギリス、フランス、イタリア)において 12 週間にわたり、合計 120 のサンプル採取セッションを行った。細菌は空気、複数の表面、塵埃から培養した。トイレの利用者数(患者/訪問者/職員)は外からモニタリングした。
結果
イギリスのトイレは利用者数が 9 倍多かった。ジェット式空気ドライヤーよりもペーパータオルを使用したトイレの方が細菌汚染が少なかった。フランスとイギリスでは汚染は同等であったが、イタリアのトイレでは汚染が著しく少なかった。すべての場所において、回収した細菌の総量は、ジェット式空気ドライヤーの表面の方がペーパータオルのディスペンサーよりも有意に多かった(中央値 100 ~ 300 対 0 ~ 10 cfu、すべての場所で P < 0.0001)。イギリスとフランスでは、ジェット式空気ドライヤーを使用したトイレの床から細菌が有意に多く回収された(中央値 24 対 191 cfu、P < 0.00001)。イギリスのジェット式空気ドライヤーの表面は、ペーパータオルよりもメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(meticillin-susceptible Staphylococcus aureus)の回収頻度は 3 倍高く、回収量は 6 倍多かった(ともにP < 0.0001)。イギリスのジェット式空気ドライヤーの表面または設置されたトイレの床では、ペーパータオルの表面または設置されたトイレの床よりもメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の回収頻度が 3 倍高かった(21 対 7 cfu)。腸球菌(enterococci)および基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生細菌は、イギリスのジェット式空気ドライヤーを設置したトイレの床において、ペーパータオルを設置したトイレの床よりも有意に多く回収された(P < 0.0001)。フランスではジェット式空気ドライヤー使用中に、ペーパータオル使用中と比較して 2 倍の頻度で塵埃から ESBL 産生細菌が回収された。
結論
表面の細菌汚染における有意差に関して、糞便関連細菌および抗菌薬耐性細菌を含む多数の例が観察され、ジェット式空気ドライヤーを使用したトイレはペーパータオルを使用したトイレよりも汚染レベルが高かった。手指乾燥手法は、実環境の細菌伝播(空気感染)リスクに影響を与える。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
手指衛生は感染対策における重要な要素であるが、手指の乾燥にあまり注意が向けられていないのが現状である。ペーパータオルよりもジェット式空気ドライヤーがより多くの細菌が手指乾燥時に飛散し、周囲を汚染し、感染拡大のリスクが増加するというのが本論文での結論であり、医療施設においてペーパータオルよりもジェット式空気ドライヤーを使用するメリットはこの結果からは導くことはできなかった。すなわち、手指衛生における手指の乾燥に関して医療現場においては、細菌学的にも、また騒音や乾燥時間等を考慮するとペーパータオルを使用することが優先される。事実、英国 NHS の病院建設ガイダンスにおいても、「医療現場に手指乾燥のためにドライヤーを設置すべきではない」としている。

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