造血幹細胞移植レシピエントにおける多剤耐性菌血流感染症の疫学、リスク因子および転帰:移植以前の腸管保菌の重要性★★

2018.09.25

Epidemiology, risk factors and outcomes of multi-drugresistant bloodstream infections in haematopoietic stem cell transplant recipients: importance of previous gut colonization


A.M. Ferreira*, F. Moreira, T. Guimaraes, F. Spadão, J.F. Ramos, M.V. Batista, J.S. Filho, S.F. Costa, V. Rocha
*University of Sao Paulo, Brazil
Journal of Hospital Infection (2018) 100, 83-91
背景
血流感染症(BSI)は、造血幹細胞移植の早期における主要な合併症である。
目的
グラフト生着前に発生する BSI の発生率およびリスク因子、ならびに死亡率に対するその影響を記述すること。
方法
2014 年から 2015 年にわたる造血幹細胞移植(HSCT)患者 232 例の臨床変数を後向きに分析した。単変量 Cox 回帰分析を実施して、各共変数と転帰の間の関連を検討した。単変量解析で P < 0.10であった共変数を、変数減少法を用いた多重 Cox 回帰分析に組み込んだ。
結果
BSI の累積発生率は 25.4%で、主としてグラム陰性菌によるものであった(55.2%)。患者の約 40.5%に、多剤耐性菌(バンコマイシン耐性腸球菌およびカルバペネム耐性グラム陰性菌)の腸管保菌が認められた。多剤耐性グラム陰性菌の保菌を認める患者の 20%は、同じ感受性パターンを示す多剤耐性菌による顕性 BSI を発症した。感染症に関連した死亡 13 件中、10 件は多剤耐性グラム陰性菌による BSI 患者であった。BSI の独立リスク因子は、グラム陰性菌を含む多剤耐性菌の腸管保菌(P < 0.001)および 10 日を超える好中球減少の持続(P = 0.005)であり、多剤耐性菌による BSI に関連した独立リスク因子は、年齢 62 歳超(P = 0.03)、高カロリー輸液の使用(P < 0.001)および移植以前の多剤耐性グラム陰性菌保菌(P = 0.002)であった。
結論
移植以前の多剤耐性菌保菌は、高カロリー輸液および年齢とともに BSI の独立リスク因子であり、転帰に影響を及ぼした。これらの結果から、腸管除菌は BSI を予防するための戦略となる可能性が示唆される。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
本論文における HSCT の原疾患の 44%が多発性骨髄腫であり、実施された HSCT は 74%が自己造血幹細胞移植であったこと、予防投与としてレボフロキサシンとフルコナゾールが使用されていたことを考慮して結果を解釈する必要がある。さらに検出されたすべてのグラム陰性菌はキノロン耐性であった。菌血症は、口腔から肛門までの粘膜に存在する常在菌叢が粘膜から血流へのトランスロケーションにより発症する。腸管内に耐性菌が定着していると、前処置による粘膜障害や好中球減少時に腸管から血流へ入り、耐性菌による血流感染症を引き起こすことは、想像に難くない。さらにリスク因子としての高カロリー輸液は経口栄養が不十分な場合に実施するので、原因であるよりも結果であると考えられる。また、HSCT 患者の 40%が多剤耐性菌を腸管内に保菌しており、これらの多剤耐性菌が交差感染による院内伝播である可能性は否定できない。腸管除菌の前に考慮すべきポイントであろう。

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