院内アウトブレイクにおける中東呼吸器症候群コロナウイルスの大きい再生産数:サウジアラビアおよび韓国における数理モデリング
High reproduction number of Middle East respiratory syndrome coronavirus in nosocomial outbreaks: mathematical modelling in Saudi Arabia and South Korea
S. Choi*, E. Jung, B.Y. Choi, Y.J. Hur, M. Ki
*Hanyang University Medical College, South Korea
Journal of Hospital Infection (2018) 99, 162-168
背景
新興感染症の効果的な対策には、伝播率および基本再生産数(R0)の理解を要する。通常、重症急性呼吸器症候群の R0 は 1 を超えると考えられている一方で、中東呼吸器症候群(MERS)の R0 は 1 未満と考えられている。しかし、このことはサウジアラビア王国および韓国の病院で発生した MERS の大規模アウトブレイクについて明らかにするものではない。
目的
MERS の院内アウトブレイクにおける R0 を推定すること。
方法>
R0 は インシデンス減衰と指数関数補正モデルを用いて推定した。サウジアラビア王国および韓国でのアウトブレイクは、公的に入手可能な情報源から収集した MERS 症例のラインリストを用いて比較した。R0 を推定するための発症間隔は 6 日から 8 日と仮定した。試験パラメータ(R0 および対策[d])は、Matlab を用いてモデルを累積発生率の流行曲線に適合させ推定した。
結果
韓国の R0 推定値は、発症間隔 6 日 で最適モデルにおいて 3.9 であった。ピョンテクの病院 1 施設における最初のアウトブレイククラスターの R0 は 4.04 であり、サムスン病院 1 施設の最も大規模なアウトブレイククラスターの R0 は 5.0 であった。発症間隔を 6 日と仮定すると、サウジアラビア王国でのアウトブレイクの R0 はジェッダで 3.9、リヤドで 1.9 であった。
結論
サウジアラビア王国および韓国における MERS の院内アウトブレイクの R0 は 2 ~ 5 の範囲と推定されたが、これは以前の 1 未満という推定値より著しく大きい。したがってこれらの感染症に対処するため、より総合的な対策が必要である。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
基本再生産数は、「ある感染症の感染者が、その感染症に全く免疫を持たない集団で発生したとき、感染性期間に直接感染させる人数の平均」である。MERS はこれまでの中東のデータでは 1 よりも小さいと考えられてきた。韓国で発生したアウトブレイクでは、スーパースプレッダーと呼ばれる一人で多くの患者に感染させる感染患者が混み合った救急外来に長時間滞在したことがわかっている。基本再生産数はこのような状況により影響を受けることを理解することが、対策を考えるときに重要である。
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